022
――それからブラッドが車を手配し、第三班全員で軍警察署――才能の追跡官のビルへと向かう。
ブラッドの手配した自動運転車は、大昔にヨーロッパの軍で運用されていた四輪駆動型の多用途車輌――ランドローバー・ウルフを彷彿させる外観をしている。
彼はこの車を気に入っているようで、手配するものはいつもこのタイプだった。
「全員乗ったな?」
朝から元気な班長を見て、皆が怪訝な顔をしている。
どうやらこの軍用車は、班員たちからするとあまり乗り心地がよくないようだ。
「よし、じゃあ出発するぞ」
だが歩いていくわけにも行かず、皆渋々ながらも乗り込んで揺られる。
車は街中を走る。
道路も歩道と同じく石畳、顔を上げれば配線とネオンサイン。
空には黒い雲が覆っているせいか、朝だというのに薄暗く、昨日の夜にディスが見た光景とさほど変わらない。
「軍警察署ってここから近いんですか?」
「車なら十分くらいだ」
ディスの質問にブラッドが答えた。
彼ら第三班が住む家と才能の追跡官のビルは、アンプリファイア・シティのマーシャル・エリアにあり、ボス·エンタープライズの本社があるところでもある。
そのため、犯罪都市といわれるこの街でも比較的治安は良好。
メディスンがディスを向かえに行った港がある区域オレンジ・エリアや、こないだパロマとムドが戦った赤い開拓者が仕切るヴォックス・エリア――。
その中でも、もっとも荒れていると言われているハイワット・エリアなど三つ区域には、いくら連合国から派遣されて来た軍警察でも、足を踏み入れることは難しい。
それぞれの四つ地区には、区域のボスとして仕切っている者がおり、マーシャル・エリアにいた人物は、他のエリアとの抗争で命を落とした。
けして喜ぶべきことではなかったが、そのおかげもあり、才能の追跡官がこのエリアで上手に立ち回れたのは事実だった。
「第三班だけだよな。こんな全員で出勤するなんて班はよ」
ムドが乾いた笑みを浮かべて言うと、ディスが訊ねる。
毎日全員で軍警察署へ行っているのかと。
ムドがうんざりした表情で答える。
「あぁ、他の班はそんなことしねぇってのに、うちはまるで幼稚園だ」
「良いことじゃない。シヴィルも送迎があるからちゃんと仕事に行くようになったんだし」
ムドが答えると、リズムが口を挟んできた。
どうやらシヴィルは、こうやって全員で出勤しないと仕事を休みがちだったようだ。
シヴィルが口を開く。
「シヴィルは一人だと冬のナマズのようにおとなしくなる……。しょうがない」
「冬のナマズ?」
「好きなマンガの引用……」
ディスらが後部座席で向き合いながら、そんな話をしていると、才能の追跡官のビルへと到着した。




