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グリーがそれを横目で見ていた。
目の前には、バヨネット·スローターを持って襲って来るラウドと、獣化したニューファだ。
「もう味方はいないよ。さて、まさか参ったとか言わないよね?」
ラウドが銃に付いたナイフを突きながら言うと、グリーは笑って返す。
「言うわけないじゃない。お母様のためにも、まだまだ時間は稼ぐよ、ワタシは」
「そりゃ親孝行なことで」
だが、ラウドが言ったように――。
メルコア、エクスは死亡。
どう足掻いてもグリーだけでは勝ち目がないことは明白だった。
なんとか二人を相手にしているものの、再びルック、マイン、ロラの援護が始まり、さらに怒り狂ったヴィラージュが飛び掛かってくる。
後方から飛んできた電磁波、破壊光線を浴び、そこへニューファの爪とヴィラージュの蹴りがグリーの身体へ突き刺さった。
吹き飛び、壁に叩きつけられた彼女はもう起き上がる力もないのか、ただ顔を上げて言う。
「あらら、もう終わっちゃうね。エクス、メルコア。今ワタシも行くよ」
「いってらっしゃーい」
ラウドはそんなあっけらかんとしたグリーを見下ろしながら、ナイフを彼女の頭に突き刺した。
バタンと倒れた赤いメッシュの入った白髪の少女の顔は、どこかやり切った満足感があるように見えた。
「さてと、じゃあオレはブルドラを追うね」
「おいラウドッ!?」
ルックが彼を引き留めようと声を張り上げたが、ラウドがそのまま走り出していった。
残された班員たちは、泣いているヴィラージュのことを見ていた。
赤い燕尾服の幼女は、着ぶくれした少年を抱きながらブツブツと何か言っている。
「リトルリグ……リトルリグ……。なんで……なんで死んじまったんだよぉ……。あーしは、あんたことが本気で好きだったの……。あんたの子供がほしかったのに……」
幼女が子供がほしいという言葉から――。
ずいぶんと飛躍した言い回しだと思いながらも、班員たちはヴィラージュのリトルリグへの想いが本物だったことを感じていた。
子供が欲しいというのも、もしかしたら家族を作りたかったのかと思い直す。
ヴォックス·エリアを仕切り、残虐行為の限りを尽くしていたヴィラージュも、こう見るとどこにでもいる普通の人間なのだ。
班員たちはそう思うと、自分たちも似たようなものだと心を痛めた。
あれだけ強気で、いつも人を小馬鹿にした態度のヴィラージュが泣き喚く姿は、これまで幾度なく戦った才能の追跡官たちでも見ていられない。
「慣れないわよね……。こういうのって……」
マインがそう言葉を漏らすと、そこへマローダーが現れた
「こっちは終わったか……」
そしてマローダーは、ピックアップブレードを握ったまま班員たちへと近づいていった。




