021
ソウルミュー・ライクブラックは――。
前の戦争で何の特殊能力も持っていないというのに、世界最強の一人に数えられる英雄――ローズ・テネシーグレッチと戦った男だ。
その姓を聞いてわかる通り、リズムの家族――兄でもある。
「こいつは正直に言うと、学力と身体能力のテストでの結果はギリギリって感じだったんだが。まあ、ソウルミューのヤツがゴリ押しして才能の追跡官になれたってとこだ」
「ブラッド班長……。酷いです……」
班員たちやリズムに知られたくなかったのだろう。
ディスはブラッドに呆れてながら言い、悲しそうな顔をしていた。
「わりぃわりぃ。でもよ、こうやって連合国が認めてうちに来たんだ。ゴリ押しだけじゃこの街には配属されねぇよ」
ガハハと笑い、まったく悪びれないブラッドの話を聞いた班員たちは、それぞれ思う。
(やっぱりお兄ちゃんがディスをここにやったんだッ! しかもゴリ押しまでして……ホントになに考えてんのよあのクソ兄貴ッ!)
額に青筋を立て、顔を強張らせるリズム。
(このツギハギ顔はソウルミュー・ライクブラックの弟子か。しかし、才能の追跡官に選ばれたということは無能力者ではあるまい。まあ、テストの結果も酷く見るからに弱そうだし、気にするほどでもないか)
そう思いながら、ストリング王国の国旗――バイオリンに音符が絡み合うイラストが描かれたマグカップに手を伸ばすパロマ。
(こいつ、わざわざゴリ押ししてもらってまでこんなクソみてぇな街に来たのかよ? 意味わかんねぇな。それともオレと同じで金目当てか?)
疑うような視線でディスを見るムド。
(おいしい、おいし過ぎる。リズム姉の作るご飯はどうしてこんなにおいしい? 今のところ三十三食戦して全勝。恐るべしリズム姉)
一度はディスに興味を持ったものの、おかわりしたオムレツを食べ続けるシヴィル。
そんな班員たちを見て、ニコは「相変わらず纏まりがないなぁ」と言いたそうに、メェ~と鳴いていた。
「よし、じゃあ食べ終わったら軍警察署へ出勤だ。皆揃って行くぞ」
そして、何かと団体行動して纏めようとする班長――ブラッドを見た電気羊は、大きくため息をつくのであった。
ディスはそんなニコとリズムに声をかけ、皆と同じテーブルに着いて食事を始める。
「うん! やっぱリズムの作った料理はおいしいや!」
わざわざ口に出して言ったディスは、シヴィルに負けず劣らずおかわりしていた。
ニコも先ほどの呆れた表情から一変してご機嫌になっており、実に旨そうにオムレツを食べる。
リズムはまだ顔をしかめてはいたが、そんな無邪気なディスとニコを見てクスッと微笑むのだった。