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――氷の階段を駆け上がり、ストリング帝国の将校三人を追いかけていったヴィラージュとリトルリグ。
その後ろには、飛び出して行ったラウドと彼を援護するように言われたブルドラたちがいた。
この収容所のような建物は屋上も入れて三階まであり、帝国の将校らは最上階へと向かったようだ。
ヴィラージュとリトルリグの後ろを走るラウドの隣にブルドラが追いつく。
「もうラウドったら勝手に飛び出して……。メディスン班長が僕らを行かせなかったらどうするつもりだったんだよ」
ウルトラマリンブルーの髪を振りながら、ブルドラが呆れて言うと、ラウドがニカッと笑みを返す。
悪びれない彼の態度に、彼女はムッと表情を強張らせていた。
「まあまあ、そう言うなって。もう下は余裕っしょ? だったら指揮してる奴を捕まえなきゃ。それに、戦うならあの三人の誰かのほうが面白そうだしね~」
「そっちが本音でしょ。……まったく、あなたは昔そうなんだから。いつも僕がその尻拭いをさせられる……」
「そんなこと言わないでよぉ。ブルドラ愛してる~。オレはいつも君のことを考えてるんだよ。これで許して~、ね?」
「またそうやってふざけて……。そんなことじゃ僕は誤魔化されないぞ」
前を並んで走るラウドとを見て、他の班員たちがクスクスと笑い始めている。
まだまだ油断が許されない状況だが、この二人はいつもこうだと、つい笑ってしまう。
ラウドが勝手なことを始め、ブルドラがそれを止めるかまたは後始末をする。
才能の追跡官として、この街――アンプリファイア・シティへ来てからしょっちゅう見る光景だ。
「はぁ……私も二人みたいにイチャイチャしたいなぁ」
そばかすの目立つ顔を歪めた少女――第二班の班員であるマイン·キネシスがため息交じりに呟いた。
そんな彼女の傍へと近寄って褐色の肌をした少年が口を開く。
「な、なあマイン。俺でよかったらいつでも……その……」
マインと同じく第二班――ルック·レジデンスが顔を赤らめながら言うと、彼女が無愛想に返事をする。
「冗談でしょ? あんたとイチャイチャするくらいならニコをモフモフするわ」
「うぅ……。勇気を出して言ったのに……」
落ち込むルックを見て、その後ろを走る少女二人がさらに笑っていた。
マインはそんな二人に声をかける。
「二人はいいよね。幸せそうで」
二人の少女は第一班――ニューファ·ビストとロラ·トラクティブだ。
彼女たちは同性愛者であり、才能の追跡官たちの中で公認のカップルである。
ニューファがマインへと言葉を返す。
「ルックの気持ちに応えてあげれば?」
「そうだよ。二人、けっこうお似合いだよ」
ロラがニューファに続いて言うと、マインが両目を見開いて答える。
「はぁッ!? なんでこんな奴と私がッ!」
「マイン……。本人がいる前で……酷い……」
マインが声を張り上げて拒絶すると、ルックが今にも泣きそうな顔で呟いていた。
ブルドラはそんな彼らを見ながら微笑むと、ラウドの肩をバンッと叩く。
ラウドは「うん?」と顔を向けると、ブルドラがニッコリと微笑んだ。
「いきなりなんだよブルドラ?」
「なんでもない。……皆ッ! 絶対に生きて帰ろう!」
ブルドラの言葉に、その場にいた全員が大きく頷いた。




