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――その頃、飛び出したシヴィルは地下の廊下を走っていた。
奥にはよく知っている薄紫色の炎の壁が見え、彼女はさらに走る速度を上げる。
「ムドだけじゃない。ディスもパロマもリズム姉もいる……。みんな、まだ生きてるッ!」
力強く呟いたシヴィルは、ディスたちの姿を確認しながら炎の壁へと飛び込んだ。
そして突き抜けると、そこにいたムドの隣で立ち止まる。
「シヴィルッ!? 来てくれたのかよッ!」
ムドの顔がほころぶ。
シヴィルはすでに機械化――装甲した腕を構え、目の前に見えるドクター·ジェーシーらを睨みつけた。
「上のほうはもう大丈夫。あとはみんなで帰るだけ」
「そうかよ! なら、さっさと片付けて帰ろうぜッ!」
歓喜の声をあげて返すムド。
これまで彼の中では、ブレインズ三人と自分だけという絶望的な状況だったが。
シヴィルが来たことによって、真っ暗な道に一筋の光が差したようだった。
さらにこの灰色髪の少女は、その小柄な体格から考えられないほど強い。
これならパロマたちを守れる――ムドはシヴィルが駆け付けてくれたおかげで、精神的な安定を取り戻していた。
「エレクトロハーモニー社の秘書か……。ちょっと、あなたたちには荷が重いかもね」
並んで構えるムドとシヴィルを見て、ジェーシーは傍にいた三人の少女へ呟くように言った。
ジェーシーの言葉から何かを察したのか、少女たち彼女を守るように囲い始める。
見たところ、特に身構えるでもなし。
とてもこれから戦おうとしてように見えない。
「もうちょっと遊びたかったけど、帰ることにするわ。あんまり欲張ってもいけないしね」
ジェーシーの言葉を聞き、シヴィルが飛び出そうとした。
だが、ムドが彼女を制して訊ねる。
「なんだよ? オレらとやらねぇのか? 人数的にお前らほうが有利だってのによ」
「望んだもの手に入ったもの。それに、あなたの素敵な炎も見れたしね。では、縁があればまた会いましょう」
すると、少女たちはジェーシーの身体を支えるように掴み、そのまま廊下の奥へと消えて行った。
それを確認したムドは、炎の壁を自分たちの前方へと移動させ、パロマのもとへ行き、彼女のことを背負う。
それを見たシヴィルは、何も言われていないというに、ディスとリズムをその小さな身体で担いだ。
「なんだかよくわからねぇが行ってくれたな。急いで戻ろぜ」
「オッケー。たぶん上ももう終わっている。と、シヴィルは思う」
それから二人は一階へと向かった。
ディスとリズムの意識はまだ戻らず、パロマは呆けたままだった。




