194
――ディスがリズムを抱えて廊下を駆けていたとき。
ムドはパロマのことを捜していた。
地下にある部屋を一つひとつ開けて回る。
ジェーシーが去り際にいった言葉を思い出せば、ストリング帝国の将校の一人――。
ネア·カノウプスによって何かされているということだ。
きっと酷い拷問でもされているのだろう。
プライドの高いパロマなら、辱められるよりも死を選ぶ可能性がある。
急がねば、早く彼女のもとへ行かねばと、ムドは内心で焦っていた。
そして、ようやく彼女の姿を発見する。
「パロマッ! よかった! 生きていたんだなッ!」
両手を鎖で拘束された彼女を見て、ムドはホッと胸を撫で下ろしたが、
その彼女の姿に愕然とした。
才能の追跡官の上下黒の制服はボロボロに引き裂かれており、半裸状態。
股間の辺りはまるで失禁したかのように濡れており、目の焦点がほとんど合っていない。
ネアの塗った媚薬の影響で、いよいよおかしくなりかけていた。
パロマはムドに気が付くと、なまめかしく腰を振っていた。
「ムド……ムド……。お願い……見ないでぇ……」
だらしなく口を開け、以前の凛々しさの塊だった彼女の面影はそこになかった。
すでに自我が薄れているのだろう。
だが、それが逆に自殺することを忘れさせているのだと、ムドは思う。
「待ってろよ。すぐに助けやるからな」
ムドはパロマの拘束を解くと、自分が着ていたコートを羽織らせて彼女を背負う。
熱くなった女の身体に、ムドは思わずドキッとしたが、今は不埒なことを考えているときではないとこの場から去って行く。
背中ではパロマがずっと喘いでいる。
耳元で色っぽい呻き声を出し続ける彼女に、ムドは理性を保っているのが辛くなっていた。
パロマのほうもムドのオスの匂いを嗅いだせいか、まるでベットで男を誘う売春婦のようにくっついている身体をさらに密着させる。
背中に豊かな胸が当たり、ムドはこれは拷問だと複雑な気持ちで泣き笑う。
ただでさえ好きな女の子が自分に密着しているのだ。
しかも、誘って来ているかのように荒い呼吸で胸を当てて来る。
思春期の男子にとって、この状況は辛すぎるとムドは誘惑に負けそうになる。
「ちょっとくらいなら……いやダメだッ! 好きな女だからこそ、正面切って堂々と誠実にしなきゃな」
「はぁ……はぁ……ムドォ……」
「くッ!? でも、こいつはキツ過ぎるぞッ!!」
ムドが少しでも性欲を発散させようと叫びながら走っていると、目の前にディスの背中が見えてきた。
オレンジ頭の様子を見ると、どうやらリズムを救い出して廊下へと飛び出したようだ。
「さっきなんか声が聞こえてたが、やっぱあいつか。なんで立ち止まってのかわかんねぇけど、ともかくすぐに合流できたのラッキーだったな。おい、ディス。リズムは無事か?」
ムドが声をかけたが、ディスは返事もなく、リズムを両手で抱えたままその場に立ち尽くしていた。
その全身には電子回路の光が張り巡らされており、彼が能力を使用していることは理解できる。
だが、こんな敵の腹のど真ん中で、どうして立ち止まっているのか。
「おい! 一体どうしちまったんだよッ!? 早くこんなとこ出てみんなと合流しようぜ!」
ムドは何度も声をかけたが、ディスから返事はなかった。




