193
薄暗い室内には、ホログラム画面が至るところに浮かんでおり、その先には機械の椅子に拘束されているリズムの姿があった。
一糸まとうわぬ裸体のまま、目元まで隠れるヘルメットのようなものを被っている。
唇に吐息は小さく、まだ年齢のわりに豊かな胸もまたさざ波ほどの動きを見せているだけで、辛うじて息をしている――。
リズムはそんな状態だった。
固く瞑られた瞼の裏には、どのような夢を見ているのか。
それを知るのはリズム本人だけだ。
「今度は遅かったわねぇ」
そこには白衣姿の女性――ドクター·ジェーシーの姿があった。
彼女の傍に帝国の将校らの姿はなく、代わりに残されたデバイスに映っていた赤いメッシュの入った白髪の少女と、ラメが入ったような赤い髪の少女、そして同じくラメの入ったような黒髪の少女三人が立っている。
だが、今のディスの目に彼女たちは映っていない。
彼はリズムの姿に動揺したが、すぐにでも行動を起こす。
「お前たち……全員殺す」
ディスは火山のマグマが噴き出す前のような静けさで呟くと、右足を踏み込んでスイッチング·ブーストを発動させた。
スイッチング·ブーストとは、ドクター·ジェーシーが造り出した改造人間――ブレインズが持つ能力の一つだ。
利き足の踏みつけを合図とし、特殊な電波を脳内に巡らせる。
そこから脳髄を歪ませることで、自身の身体能力を限界まで引き出すことのできる力だ。
さらに相手の動きを最速で脳が演算できるため、数秒後に相手が何をして来るかを把握でき、発動時には電子回路のような光が全身を巡り、両目が赤く輝き始める。
両手両足に電子回路の光が巡って行き、ディスの赤い両目の瞳孔が開いた。
そして、ディスはまず拘束されたリズムを強引に機械の椅子から救い出した。
彼女を抱き上げてそのまま下がると、着ていた白いショートコートをリズムに羽織らせる。
「だけど、今はリズムの助けるのが先だ。お前たち……次に会ったら必ず殺す、絶対に殺す、確実に殺す。何があってもなにがなんでも殺してやるぅぅぅッ!」
ディスはそう叫ぶと、すぐにその場から去って行った。
室内を出て、ここまで来た廊下をまた走り出す。
歪んだ脳の痛みも忘れ、リズムを抱いて駆ける。
ふと彼女に目をやり、その顔を見る。
リズムの顔は生気が失われ、手足も身体もまるで枯れ木のようだった。
ジェーシーが何をしたのかはわからないが、彼女が急いで治療しなければいけない状態だったのは明白だ。
「とりあえずニコのところまで行けば……ぐッ!?」
治療キットを持つ電気仕掛けの仔羊のもとまで戻ろうとしたディスだったが。
突然、意識を失ってしまった。




