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「どうしたヴィラージュ? 続けないのか?」
メディスンは喋りながらも口から血が垂れていた。
ヴィラージュは特殊能力を持たない彼が自分の一撃を耐えたこともに驚いたが、それ以上にダメージがあまりなさそうなことに顔を強張らせる。
だが、幼女はすぐに気が付く。
メディスンの喉が動き、何かをゴクッと飲み込んでいることに。
「あんた……。血を飲み込んでんのか?」
ヴィラージュの言う通り――。
メディスンは顎の骨が砕け、口の中がズタズタになっていた。
その出血を誤魔化すために傷口から溢れる血を飲み込んでいたのだ。
ヴィラージュの能力は強化装置という。
体細胞の電気信号を操作して肉体のリミッターを一時的に解除し、力、速度、五感、動体視力などの身体能力を限界以上に引き出すものだ。
引き上げられた腕力で殴られたメディスンが無事でいられるはずがない。
だが目の前のだだの人間である男は、死ぬ可能性があってもあえて自分の一撃を受けたように、ヴィラージュには見えた。
「なんで……なんでだよッ! 連合国の犬がなんでそこまでするッ!? あーしらを丸め込むならもっとやり方があんだろうがッ!」
「丸め込むためじゃない……。これは、私にできるお前たちへの精一杯の誠意だ」
メディスンは口に付いた血を拭うことなく言う。
激痛に耐えながら言葉を続ける。
自分は、アンプリファイア・シティの者たちや才能の追跡官との戦いに参加するにはあまりにも非力だ。
当然、力で強引に誤解を解くのも無理。
言葉での説得なら、なおさらに不可能だろう。
ならば、こんな自分ができるのは身体を張って見せるしかない。
「少なくとも、これ以外のやり方を私は知らない……」
そう言いながら、メディスンは思い出していた。
過去に親友を殺そうとしたこと。
その親友は戦える力がありながらも、自分への説得を諦めなかったことを。
強かった人物がそこまでやるのだ。
誰かに理解を求めるのならば。
こちらのことを信じてもらいたいのなら、言葉よりも力よりも、命を張るのが一番伝わる。
メディスンにとって、その親友は軍神のようなものだった。
「あ、あーしは信じねぇぞ! そんなことしたって、だってテメェらはこの街をッ!」
「ヴィラージュ……」
震えながら声を張り上げたヴィラージュの肩に、リトルリグがそっと手を乗せた。
彼と視線を合わせたヴィラージュは、ただ呻きながらその握り込んでいた拳を下ろす。
それを見た赤い開拓者たちも、彼女のように真っ赤な放電警棒――スタンレッドを下ろしていた。
戦意が無くなったと思われる相手を見て、ブルドラがメディスンへと駆け寄る。
「メディスン班長ッ! なんて無茶を! ニコお願い!」
ブルドラは青い髪を振り回し、治療キットを持つニコに声を張り上げた。
ディスの肩にしがみついていたニコは、大慌てで二人のもとへと向かっていく。
「終わった……のか?」
「みたいだねぇ。ちょっとつまんない幕引きだけど」
ムドが唖然としながら言うと、ラウドが口をとがらせて答えた。
「スゲェ……やっぱスゲェよ、メディスン班長ッ!」
「それは当たり前。普通の人間でこれまで生き残って来たのは伊達じゃない。きっとブラッド班長、エヌエー班長だってこの場にいたら同じことをする。あの人たちは特別。と、シヴィルは思う」
歓喜するムドにシヴィルがそう言うと、他の才能の追跡官たちも声をあげて喜び始めていた。
ヴィラージュとリトルリグも、そんな光景を見ながらその口角を上げていた。
誤解から始まったこの戦いは、このまま終わるかと思われたが――。
《あらら、困ったわねぇ。まさかそんなことで戦いが終わっちゃうなんて》
突然その大広間のど真ん中に、白衣姿の妙齢の女性――ドクター·ジェーシーが現れた。




