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――拘束されたパロマにネアの手が伸びていたとき。
同じく地下の別室では、リズムがコーダ·スペクター大尉とアバロン·ゼマティス少佐の前にいた。
意識を失っているリズムは、固定された椅子に捕らえられており、身動き一つできない状態だ。
「相変わらず趣味がわりぃ女だな、ネアのヤツはよぉ」
逆立てた髪を弄りながら、コーダが呆れて言った。
アバロンはフンッと鼻を鳴らすと、その結ってある長い髪を揺らして顔をしかめる。
「まったくだ。長い付き合いだが、どうもあいつのああいうところだけは嫌悪感を覚える」
「だよな。拷問する意味もねぇ相手に、ただ楽しみたいってだけで媚薬まで使うのはどうも気に入らねぇ」
二人がそんな会話をしていると、部屋に扉が開いた。
そこには、妙齢の白衣を羽織った女性――ドクター·ジェーシー·ローランドが現れる。
不満そうな顔をしている二人を見て、ジェーシーは言う。
「人の性癖をとやかく言うもんじゃないわよ。あの子はずっと我慢してたんだから、ご褒美くらいはあげなきゃねぇ」
宥めるように言うジェーシーに、コーダもアバロンもそれぞれ「ケッ」「フンッ」と不機嫌そうに返した。
そして、ジェーシーは椅子に捕らえられているリズムの前に立つ。
彼女は手を伸ばし、リズムの黒髪の三つ編みを弄んでいた。
「ようやく手に入れたわ。これで生命エネルギーを気に変える秘密が解き明かせる」
まるで、芸術家の珠玉の作品を眺めるようにウットリとしているジェーシー。
その恍惚の表情を見て、コーダとアバロンはさらに嫌悪感を強めていた。
どうやらストリング帝国将校の男二人は、ジェーシーやネアのような性癖に辟易しているようだ。
「それで、わざわざ連中を呼び出した理由はなんだよ?」
「たしかに理解できないですな。才能の追跡官をここへ呼ぶ意味は」
コーダとアバロンがそう言うと、ジェーシーはクルリと振り返った。
そして、指をパチンを鳴らすと、部屋中にホログラムの画面が現れる。
「DS-1とBD-2は私の計画に必要なの。まあ、どうせ二人だけで来ないとは思うけどね」
その現れた画面には、ハイワット·エリアへと向かっているディスたちを乗せた車や、メディスンたちがいる才能の追跡官の本部が映し出されていた。
他にもこの街――アンプリファイア・シティの至るところが映し出されている。
ジェーシーは、その中の一つタッチ。
そのホログラム画面には、厚着をした少年と赤い燕尾服を着た幼女が映っている。
「でもね、他にもたくさん招待したから、これから盛り上がるわよ。さてと、ネアが楽しんでいる間に、あなたたちは客人を迎える準備をお願いね」
ジェーシーにそう言われたコーダとアバロンは部屋を出て行く。
残ったジェーシーが宙に浮く立体映像を操作すると、リズムを固定していた椅子から触手のようなケーブルが出現。
その無数のケーブルが、リズムの身体へと吸い付いていく。
「さあ、いよいよ生命の秘密を暴けるわ。これで私の願いが、ようやく叶う」




