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自分は今日限りで才能の追跡官を辞める。
メディスン班長にはブルドラから伝えておいてほしいと言い、玄関のドアノブに手を伸ばした。
「俺はリズムを助けに行く。もちろんパロマも助けるから、みんなは指示があるまで待機してればいいよ」
「いきなりなに言ってんだよッ!」
ディスの言葉を聞いたムドは、突然彼の胸倉に掴み掛かった。
両手で締め上げるようにしながら、ディスのことを睨み付ける。
「んな勝手なマネが許されると思ってんのかッ!?」
「許してもらえなくていい。俺は何があってもリズムを助けるだけだ」
「ふざけんじゃねぇッ!」
ムドは掴んだディスの体を壁に叩きつけた。
そして、彼のしようとしていることを否定し始める。
才能の追跡官が連合国軍の命令に逆らってどうなるのかわかっているのか。
命令違反はその場で殺処分。
これまでに反抗的な態度を取ってきた班員は、全員始末された。
それでも勝手な行動をするのかと、まるで自分に言い聞かせるように声を張り上げていた。
「それにお前だけで行って二人を助けられるのかッ!? 向こうはお前とブルドラを指定しているんだぞッ! ヘタすりゃそのまま殺されちまう……。敵の数もわからねぇし、そんなんでお前一人になにができんだよッ!」
「なら、手伝ってよ」
ディスは掴まれた胸倉を強引に振りほどくと、ムドに向かって言い放った。
そして、次にその場にいた全員一人ひとりを見て言葉を続ける。
「俺一人じゃ無理だって言うなら、みんなで行けば二人を助けられるでしょ」
「お前……イカれてんのかッ!? さっき言っただろうがッ! 命令違反は殺されるってよ!」
再び喰ってかかってきたムドを見つめるディス。
その様子は、胸倉を掴まれたことや、暴言を吐かれたことも忘れているように見える。
「ムドもパロマを助けたいんでしょ?」
「うッ……決まってんだろ! そんなのッ!」
「だったら助けに行けばいい。連合国を敵に回すくらいで、一体何を迷う必要があるんだよ」
「いやフツー迷うだろッ!? 連合国はこの世界そのものみてぇなもんなんだぞッ! それに、オレには他にも……」
「あぁ、病気の弟さんがいるんだっけ? ならこうしよう」
ディスはそう言うと、ムドだけでなく全員へ話を始めた。
今回のことで局長――イーストウッドから処分を言い渡されたら、すべて自分のせいにすればいい。
ディス・ローランドに能力で脅され、仕方なく彼に協力したといえば、少なくとも殺処分は免れるだろうと。
ブルドラは、ディスの話を聞いて震えながら訊ねる。
「ディス、君は……正気なのか?」
「正気だよ。じゃなきゃこんなイケてるプランを思い付くと思う? 頭が変な奴には考えられないでしょ?」
その返事を聞いたブルドラは、さらにその身を震わせていた。




