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それから遅れてやって来たマローダーと合流。
ヴォックス·エリアで起きたリトルリグの襲撃がすでに終わったことを伝え、才能の追跡官一同はマーシャル·エリアに帰ることになる。
事情を聞いたマローダーは特に反応はなく、ヴィラージュが捕まえたという男の移送を手伝っていた。
「では、この男については私とマローダーで調べる。お前たちは家で待機しててくれ」
メディスンはそう言うと、マローダーが乗ってきた自動運転車に乗り込んだ。
これから才能の追跡官の本部で、何故赤い開拓者の格好をしてハイワット·エリアを襲ったのかを尋問するつもりのようだ。
ディス、ムド、シヴィル、ラウドの四人は、言われた通りに第三班の借りている一軒家へと戻ることにする。
自動運転車のトラックの運転席にはディスとラウド。
その荷台にはムドとシヴィルが乗った。
「なんか、思ってもなかった決着だったな」
「ヴィラージュも男ができれば今よりも大人しくなるはず。と、シヴィルは思う」
「そんなもんかねぇ。でもまあ、そうなればヴォックス·エリアもハイワット·エリアも平和になって、後はストリング帝国さえ捕まえればこの街もちったぁ良くなりそうだな」
ムドとシヴィルがそんな会話をしていとき。
運転席いるディスはご機嫌だった。
ラウドは助手席から、そんな彼の横顔を眺めて不可解そうにしている。
「ねえ、なんでそんな嬉しそうなの? もしかして、ヴィラージュとリトルリグがくっついたのがそんなに嬉しいの?」
ラウドは、ディスが何故そんなニコニコと微笑んでいるのかを訊ねた。
ディスは首を左右に振ると、動かす必要にないハンドルに手を乗せて答える。
「だって、思ったよりも早く仕事が終わったからさ。これでリズムの昼ご飯を作れる」
「あぁ、そっちね。ディスってさぁ、ホントにリズムが好きだよねぇ~」
「そりゃそうだよ。なんてったってリズムは、俺の女神だからさ」
ラウドは、別に恋人同士というわけでもないのに、ここまでリズムに尽くすディスに違和感を覚えていた。
たしかにリズムは誰にでも優しく、自分よりも他人を優先するような利他的な人物だ。
ディスの言う通り、女神と呼ぶのに相応しい人物であると思う。
実際に彼女は幼い頃から戦場で凄惨な現場で過ごし、そのことで“血塗れの聖女”と呼ばれるほど、その善良性が世界で認知されていた。
リズムの支持者は多いと思うが、それにしてもディスは度が過ぎている。
彼のリズムへの想いは、恋愛感情など通り越してもはや崇拝の域だ。
ラウドがそんなことを考えているうちに、トラックは第三班の一軒家へと到着。
皆、トラックから降り家の中に入ると――。
「な、なんだよ、これ……?」
廊下から見える光景は、明らかに強盗でも現れたかのように荒らされていた。




