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薄紫色の火が、ムドの操作によってリトルリグへ襲い掛かった。
燃焼操作対氷の抱擁――。
炎と氷の特殊能力対決という図式になる。
リトルリグは最初こそ怯んだが、静かに向かって来る火に対処する。
「オイラの氷を甘く見ないでよ」
その言葉と共に、彼の周囲に無数の氷塊が現れた。
それは一つひとつこそ小さかったが、あっという間にムドの放った火と同じ数が出現。
そして、向かって来る火を相殺。
「やっぱマッチじゃ火力が足りねぇか。ならッ!」
再びマッチに火を付けたムドは、小さな火を集めて大きな炎を作り出した。
丸められた薄紫色の火が紫の光球となって放たれ、氷の壁を一気に溶かしていく。
「一足す一は二の理論? でも、それで火力が上がるのはおかしい」
「いや、そこは能力ってことでいいんじゃないかな……」
それを横目で見ていたシヴィルが疑問を口にすると、ディスが「この状況で気にすることか」と呆れていた。
二人がそんなやり取りをしている間に、薄紫の光球がリトルリグの眼前へと迫っていた。
「喰らいやがれッ!」
ムドの叫びと共に、小さなリトルリグの身体が光球に包まれた。
燃え盛る薄紫の炎の中からリトルリグが脱出する。
飛び出した少年の姿は、トレードマークともいえる厚着がすべて燃えてしまっており、ノースリーブのシャツ一枚といった格好になっていた。
「紫頭のお兄さん……」
「なんだよ? 降参すんなら受け入れるぜ」
「ちがう……。今、手加減したでしょ?」
リトルリグがそう言うと、ムドは鼻を鳴らした。
そして彼は、メディスンを殺さなかったという理由で、リトルリグのことを焼き殺さなかったのだと説明した。
「うちの班長を気に入ったって言ってくれたしな。なあ、リトルリグ。オレたちが戦う必要はねぇんじゃねぇか?」
ムドはさらに言葉を続けた。
好意を持った相手を殺さないリトルリグのような少年が、ヴォックス·エリアで暴れるのには何か理由があるのだろう。
さっきメディスンも言ったが、よかったら自分たちにその理由を話して欲しいと。
「オレにはわかる。お前は悪いヤツじゃねぇ。何かあんだろ? 話してくれよ。力になれるかもしれねぇ」
ムドはそう言うと、薄紫の光球を自分のもとへと戻した。
それから着ぶくれしていた少年を見つめ、自分に敵意がないことを示すため、先ほどのメディスンがしたように両手を上げる。
「つーわけで、お前らも手出し無用で頼むわ」
そして、ディス、シヴィル、ラウドへと、武器を下げるように声をかけた。
ディス、シヴィルはすぐに言う通りにしたが、ラウドのほうは少し不満そうに頬を膨らませている。
「さあ、話してくれよ。オレらはお前と戦いたくねぇんだ」
リトルリグも、そんなムドたちの態度を見たせいか、周囲にあった氷塊を消した。
そして、先ほどよりもブルブルと身を震わせると、静かに口を開く。
「……オイラがここで暴れたのは、赤い開拓者たちがハイワット・エリアを襲ってきたからだよ」




