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ラウドはそう言って微笑むと、リトルリグに向かって飛び出して行った。
リトルリグは、氷の彫刻となったメディスンを滑らせて自分のもとから離した。
おそらくは、彼を戦闘に巻き込まないように対処したのだろう。
その行為は、先ほどのリトルリグの発言が真実だということが理解できるものだった。
ラウドはそれを見て安心したのか、速度を上げていく。
そして、バヨネット·スローターのナイフを向けてリトルリグへ襲い掛かった。
だが突然地面から氷塊が現れ、彼の行く手を阻む。
「これくらいは想定内だよ~!」
ラウドは氷塊を避けて近づいて行くが、次々と地面から氷の壁が現れた。
これをすべて避けて、ついにリトルリグへとナイフを突き立てたが、厚着をした少年はそのナイフを素手でガッチリと掴む。
「スゴイね、ピアスのお兄さん。まさかオイラに近づけるとは思わなかったよ」
リトルリグがそう言うと、彼に掴まれたナイフが凍り始め、バヨネット·スローターが完全に氷漬けとなった。
それを見ていたディス、ムド、シヴィルの三人が、後方からバヨネット·スローターを発射。
ラウドを救おうと電磁波と弾丸を撃ったが、それは先ほど現れた氷の壁が動き始めて防がれてしまう。
ムドが叫ぶ。
「離れろラウドッ!」
ラウドはバヨネット·スローターを捨て、リトルリグの顔面を目掛けて蹴りを放った。
こめかみを抉るように蹴りが突き刺さったが、逆に彼の足が凍り始めている。
「こりゃヤバいねッ!」
「なんで嬉しそうなの?」
リトルリグは不可解そうにしながら手を伸ばし、ラウドに触れようとした。
だが、急に無数の火の球が飛んできた。
怯んだリトルリグに、ラウドは凍った足を彼の胴体へ押し付けて後方へと跳ね飛ぶ。
「今のは……特殊能力?」
リトルリグは火の飛んできた方向を見ると、そこにはムドの周囲を守るように浮かんでいる無数の火が見えた。
ムドの髪色と同じ薄紫色の火。
彼の能力である燃焼操作だ。
燃焼操作は、火や炎を弾丸のように発射したり壁を作ることができる技だ。
ただし、自分で炎を作り出すことはできないため、ムドはある道具――主にマッチを使用する。
「紫頭のお兄さんとは相性が悪そうだな。でも、そんな火力じゃオイラの氷は溶かせないと思うよ」
「試してみろよ!」
ムドは何本ものマッチ棒を手に取り、一瞬でそれらに火をつけた。
赤かった火が次第に薄紫色へと変わり、まるで生き物のように蠢き始める。
そのときディスとシヴィルはラウドのもとへ向かい、氷漬けになった足を溶かそうとしていた。
「いけ、ムド。いつも脇役だけど、今日こそはヒーローになれる」
「余計なこと言ってんじゃねぇぞ、シヴィルッ!」
ムドはシヴィルに声を張り上げると、自分の周囲にあった無数の火を放った。




