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メディスンはバヨネット·スローターを腰にあるホルスターへと戻し、両手を上げて声をかける。
「私は才能の追跡官のメディスン·オーガニックだ。リトルリグ、君と話がしたい」
リトルリグの背中に声をかけると、厚着をした少年はくるりと振り返ってメディスンを見つめる。
自分の能力のせいで寒いのだろうか。
ブルブルと身を震わせている様子は、そのまま雪国に住む子供のようだった。
「メディスン? あぁ、レストランにいた人か」
「そうだ。リトルリグ、君が何故このようなことをしているのかを聞かせてほしい」
メディスンはそう言いながらリトルリグへ近づいていく。
彼と同じように武器を収め、後ろにいるディスたちはその様子を見ていた。
「おい、あんな近づいて大丈夫なのかよ? 下手すりゃ殺されるぞ」
ムドが心配そうに声をあげた。
それも当然である。
メディスンは、たしかに多くの戦場を潜り抜けてきた歴戦の兵士だが、何の能力も持たない普通の人間だ。
そんな彼が、触れただけで氷漬けにできるリトルリグに近づくなど、自殺行為だと思ったのだ。
死んだブラッドや街を出たエヌエーもそうだったが。
自衛の手段を持たずに、どうしてこうも無防備になれるのか。
ムドは理解に苦しむ。
声をあげたムドにシヴィルが答える。
「でも、だからあの人……あの人たちは信頼できる」
「シヴィル?」
ムドがシヴィルの名を呼ぶと、彼女は淡々と言葉を続ける。
「シヴィルたちは上司に恵まれた。連合国に捕まって、逆らうことができない状況になっちゃったけど……。それだけは事実」
その言葉に、ムドは両目を見開き、ラウドは笑みを浮かべていた。
そうだ、その通りだと。
こんな酷い仕事を押し付けられ、誰もが享受できるまともな暮らしや青春のない生活でも言える。
メディスン、エヌエー、そしてブラッド三人は素晴らしいと。
だからこそ腐らずにここまで頑張って来れたのだと。
ムドは胸の奥から熱いものが込み上げていた。
シヴィルが言った通り。
あの人たち――メディスンがああいう馬鹿な真似をするから信頼できるのだと。
「お前って、唐突に良いこと言うよな。たまにだけど」
「たまには余計。シヴィルは良いことしか言わない」
ムドはムッと膨れたシヴィルの頭を撫でて謝罪した。
ラウドはそんな二人を見て微笑んでいたが、ディスだけはただ歩いて行くメディスンのほうを見ている。
両手を上げて近づいたメディスン。
そんな彼に、厚着をした少年はそっと手を差し出した。
「メディスン班長! 離れてッ!」
ディスが声を張り上げた瞬間、メディスンは全身氷漬けにされてしまった。




