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食事が終わり、皆で食器を片付けると、シヴィルとパロマは皿洗いを始めていた。


今日の洗い物当番は彼女たちだ。


ムドは室内にあった掃除用ロボットを起動させ、自身も部屋の掃除を始めていた。


「じゃあ、ここは任せるね。俺とニコは洗濯物を干すから」


ディスがそう言うと、ニコと共にダイニングを出て行った。


これまで第三班の借家すべての家事を担当していたリズムの代わりに、各自で家の中の仕事を分け合っている。


第三班は今日午後からの出勤のため、朝から家の掃除と溜まった洗濯物を片付けようということなっていた。


皆慣れないながらも、それほど嫌がってはいないようだ。


これを機に、これからは家事の当番制にしようかとも話が出ていた。


「う~ん、このフライパンの油汚れというのは、思ったよりも厄介だな」


パロマが料理器具を洗いながら言うと、彼女と並んで皿を洗っていたシヴィルは興味なさそうに言う。


「マジで? やばくね」


「……おい、シヴィル。その言葉遣いをどこで覚えた?」


「なんで? おかしい?」


小首を傾げるシヴィルに、パロマは自分の質問の意図を説明し始めた。


今シヴィルが使っている言葉遣いは語彙力の放棄である。


語彙力こそが教養と信じるパロマからすると、彼女の話し方は不快感を覚えるうえに、教育的あまり良くない。


「会話の省エネをしたいのかなんだかわからんが。なんでもかんでも“マジ”や“やばい”で表現していたら、そのうちバカになるぞ」


「マジで? やばくね」


「だから、それを止めろと注意したのだが……」


「マジで? マジでやばくね」


いくらいっても言葉遣いを直さないシヴィル。


パロマは泡立ったスポンジを握りつぶしながら、その身をプルプルと震わせている。


そんな彼女にシヴィルが言う。


「パロマ、マジでやばくね」


「おい、ムドッ!」


そしてその怒りは、何故だか傍で掃除をしていたムドへ向けられた。


パロマは泡の付いたフライパンを持ったまま、彼へと声を荒げる。


「シヴィルがこんな言い回しをし始めたのは、お前のせいだなッ!」


「ちょ、ちょっと待ってくれよッ!? なんでオレのせいになんだよッ!」


「シヴィルの身近にいる人間で、こんな軽薄な言葉遣いをするのはお前ぐらいしかいないだろう!」


「えぇッ!? それってオレが悪いのかッ!? つーか言いがかりじゃねぇのか、それッ!」


「お前が悪い! お前が悪いに決まっている! だからシヴィルに悪影響を与えないように、今日から軽薄な言葉遣いを(つつし)めッ!」


どうやらパロマは、シヴィルが変な言葉遣いをし始めたのは、彼の影響だと思ったようだ。


ムドは納得はいってなさそうだったが、しょんぼりとしながらも「はい……」と返事をした。


そして、掃除用ロボットを連れて他の部屋の掃除へと向かおうと、ドアの取っ手に掴む。


「これからは気を付けるようにするよ。……はぁ、なんでオレが怒られなきゃいけねぇんだよ」


「何か言ったか?」


「い、いえ! なんでもありませ~んッ!」


ムドは背筋をピシッと伸ばし、慌てて部屋を飛び出して行った。


シヴィルはそんな二人のやり取りを見ながら、クスリと微笑む。


「よかった……。いつものムドの戻った……」


「ぬ? 何か言ったか、シヴィル?」


「うん。マジでやばくね」


「だからぁぁぁッ!」


廊下へと出たムドはパロマの怒号を聞きながら、やれやれと笑うのだった。

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