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真っ白な廊下を三人の男女が歩いていた。
三人共、深い青色の軍服姿に、その背中にはバイオリンに音符が絡み合う国旗に薔薇が散りばめられている紋章が入っている。
これはストリング帝国のローズ·テネシーグレッチの親衛隊のものだ。
彼らの先頭を歩いているのは、長い髪を後ろで結った男――アバロン·ゼマティス少佐。
その後ろには、コーダ·スペクター大尉とネア·カノウプス大尉。
すでに無きストリング帝国を名乗る将校の三人である。
ピクシーカットの前髪を手で払いながらネア言う。
「才能の追跡官は、タイラーテラーを返り討ちにしたみたいだよ」
「これで連中は街の四つの区域の内、二つを手に入れたわけだな」
アバロンが彼女に答えると、コーダはその逆立てた髪を弄りながら口を挟む。
「あのおっさんがこっちを裏切って勝手に本部に乗り込んだせいだろ? まったく中年の婆娑羅もんってのは、他人の言うことを聞かねぇもんだよなぁ」
「本当よ。おかげでリズム·ライクブラックを捕らえるのにも失敗しちゃったもんね」
ネアがため息交じりでコーダに答えると、先頭を歩いていたアバロンが足を止め、目の前にあった扉を開けた。
コーダとネアは彼に続いて、その扉の中――部屋へと入って行く。
そこには、白衣姿の妙齢の女性が一人で立っていた。
彼女は宙に浮かぶホログラムを操作していたが、三人に気が付くとホログラムをスワイプ。
画面を押したまま横へと飛ばして消す。
「早かったわね」
「ドクター·ジェーシー。もう知っていると思うが、タイラーテラーが才能の追跡官にやられた。オレンジ·エリアももう連中の管理下へと入ってしまったぞ」
アバロンが報告――彼女へ声をかけた。
白衣の女性の名はジェーシー·ローランド。
ディスやブルドラなど、ブレインズと呼ばれる脳機能を操作できる人間を作り出した科学者だ。
アバロンら将校三人を従え、ストリング王国の復興――発言権を強化し、ひいては国の名をストリング帝国へと戻して連合国の目を向けさせることを企んでいる。
彼女が連合国の世界会議へサイバーテロを起こしたことで、この街――アンプリファイア・シティに才能の追跡官が派遣されたきっかけになった人物でもある。
「それにしても、久しぶりね、コーダ·スペクター大尉。これで、ローズ親衛隊全員が揃ったわけだ。これでスピリッツ·スタインバーグ少佐がいれば、文句ないのだけど」
「あの人は、舞う宝石に殺された……。あの小娘にはいずれ借りは返す。今はこの街だろ?」
挨拶されたコーダは一瞬愁いの含んだ顔をしたが、すぐに表情を戻して返事をした。
ジェーシーは、そんな彼にクスッと笑みを返す。
「えぇ、そうね。これから楽しくなると思うわ。あなたたちにも動いてもらうわよ。もちろん、彼にもね」