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メディスンが思い出したこととは――。
以前に捕らえた者。
デカダンス·レイヴァーと呼ばれるサイバーゴスな格好をしている集団の一人である少女カルトが署内で変死していたことだ。
そのときのカルトは、電子ドラッグの影響で衰弱していたため、牢ではなく署内の病室にいたのだが。
突然の心肺停止で亡くなっていたのだ。
「監視カメラ……ネットワークの異常……前のとき、カルトのときと同じだな」
《えぇ、そうですけど。彼女のときとは違って、今回は殺害されています》
ブルドラの言葉を聞くと、メディスンは自分の考えを話し始めた。
カルトが亡くなったの他殺であり、ハイファとライザーを殺した人間と同じく人物である可能性が高い。
そして、その人物は軍警察内にいる人間――おそらく才能の追跡官の誰かであるだろう。
《言われたとおり、可能性はあると思います……。しかし、その人物が何故三人を殺したのか、その動機がわかりません。それに、口封じならもっと怪しまれない方法があると思いますが》
「たしかにそうだ。動機もその方法わからない。それに、もし仮に裏切り者がいたとして、こんな衝動的なやり方で口封じするとは思えん」
《そうですよね。話に聞くドクター・ジェーシーなら、もっとスマートな方法をしそうなものです》
ブルドラはメディスンと同じことを考えていた。
一度目のカルトのことは他殺とは判断できないやり方であったが、今回のハイファとライザーの殺害は明らかに素人のものだ。
この二つの起きたことを並べてみると、犯人が同じ人物とは考えにくい。
だが、監視カメラに異常を起こす方法――ネットワーク妨害というやり方は、同一犯であると思わせる。
そして、特殊能力を持つ才能の追跡官の誰かが犯人の可能性は高い。
《メディスン班長。よかったらこの件、僕に任せてもらえないでしょうか?》
ブルドラは自分の能力ならば、犯人を見つけることができるかもしれないと、志願した。
願い出たブルドラに対し、メディスンはこの件を彼女に一任。
そして、ここで話したことは他言無用であると言葉を付け加えた。
「その犯人が、必ずしも裏切り者というわけではないかもしれないからな」
《……それは、どういうことですか?》
「ともかく、このことは誰にも話すなよ」
ブルドラは了解すると通信を切った。
そしてメディスンはハイファとライザーの死を、コラスやイーストウッドに報告するために、再びリングタイプの通信機器を操作する。
簡単なメッセージを送り、詳細は後日と付け加える。
「……ひょっとしたら私たちは、誰かの掌で踊らされているのかもしれん」
それから部屋を出たメディスンは、そう独り言を呟くのだった。




