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義体のため、息苦しいということはないのだろうが、倒れたタイニーテラーは途切れながらその口を開く。
「我が、橙賊の夢……ここで敗れたり……ってとこだな……」
ディスは能力を解き、肩を落としてそんな敵の姿を見下ろす。
「我欲に身を任せ……法や理を侮り……堕落し切ったこの魂も……。ついに、ここで終わりかよ……」
満足そうな顔でタイニーテラーは言葉を続ける。
「無念……まったくもって無念だぞ……。だが……フフ、フッハハハッ!」
そして、高笑う。
動かない義体の身体で、その人工皮膚が剥がれた顔で、とても敗れた者とは思えない様子で大声で笑い続ける。
ディスはそんな笑うタイニーテラーへと近づいて訊ねる。
「何がおかしいんだ? お前は……負けたんだぞ?」
「む? これが笑わずにいられるかよ? オレを倒したのは正義や法じゃねぇ。お前だ、ツギハギ」
「……それの、何がおかしいんだ?」
「お前こそ笑えよ。お前の女を守りたいって気持ちが、その欲が、オレを打ち倒したんだからな」
不可解そうなディスのことなどお構いなしに、タイニーテラーは言葉を続ける。
「これこそ世界の理! より強い欲が人間を蹂躙する。オレは連合国なんかに負けてねぇ。誰かが作った決まりに敗れたんじゃねぇ。ただ、一人の男の欲の戦いに殺されるんだ。こんな痛快なことがあるかよ。フハッハッハッハッ!」
「あ、そう。お前のことなんか理解するつもりはないけど……。どっちにしてもお前はリズムを傷つけた……。だから……死ね」
「そのまま我を貫けよッ! ツギハギィィィッ!!」
ディスは破れても笑い続けるタイニーテラーの頭を踏み潰した。
粉々になった義体の頭からは、彼の唯一の生身である脳の肉片も一緒に混じっていた。
タイニーテラーが死ぬと、ビル内で再び爆発が始まる。
天井が崩れ、ディスはすぐにリズムのもとへ駆け寄った。
「もう、このビルは持たん。急いで脱出するぞ、ディス」
メディスンがパロマを担ぐと、ディスは頷いてリズムを背負った。
シヴィルのことは、反重力装置で飛ぶニコがなんとか持ち上げてる。
それから、崩れる天井を避けながら廊下を走るディスたち。
このビルの出入り口である受付へと向かう。
「見えたぞッ! あとは防弾シャッターさえ破壊すればッ!」
メディスンが叫ぶ先には、防弾シャッターを破壊しようしているムドの姿があった。
その傍には、拘束されたハイファとライザーの姿もある。
「ムド! 無事だったんだな!」
「今はそんなことよりも、こいつをどうにかしねぇと外に出られませんよ!」
ムドは何度もバヨネット·スローターのナイフで切りつけたのだろう。
だが、防弾シャッターには傷一つ付いていない。
もしリズム、またはパロマかシヴィルに意識があれば、その能力でこのシャッターを破壊できたかもしれない。
ディスに関していえば、タイニーテラーとの戦いで限界まで脳を酷使したため、息をすることさえ苦しそうだ。
誰もこの防弾シャッターを破壊できない。
メディスンはここまでかと、その表情を歪めていた。
「何か、何か手はないのかッ!?」




