015
――パブでの赤い開拓者との揉め事の裏では――。
このアンプリファイア·シティへ、連合国から新人の才能の追跡官が到着していた。
リズムたち班員らと同じ黒い制服に白いショート丈のコートを羽織った少年が、港に着いた船から降りる。
街にある四つある区域の一つオレンジ・エリアは港町であり、この配線に覆われた犯罪都市に正規のルートで入るには、今のところ船で来るしかない。
港にも配線は張り巡らされており、少年は、物珍しそうにその光景を眺めていた。
「そのツギハギだらけの顔にオレンジの髪、君が噂の新人か? アンプリファイア·シティへようこそ、とでも言っておこう」
少年が振り返ると、そこには自分と同じの才能の追跡官の制服を着ている神経質そうな男と、二本の足で立つ仔羊の姿があった。
「初めてまして、今日からアンプリファイア·シティに配属になりましたディス·ローランドです。あなたがメディスン・オーガニック班長ですか? って、わぁッ!?」
ディスと名乗った少年の胸に仔羊が飛び込み、その豊かな白い毛を擦り付けている。
突然抱きついてきた仔羊に驚いていたディスだったが、すぐに笑みを浮かべてその頭を優しく撫でた。
「いきなりビックリするだろニコ。でも元気そうだな」
頭を撫でられたニコと呼ばれた仔羊は、嬉しそうに鳴き返した。
メディスンと呼ばれた神経質そうな男が訊ねる。
「ニコの知り合いか? まあ、ソウルミューの推薦だから知っていてもおかしくないが」
「はい、こいつとは俺がソウルミューさんのところでお世話になってるときからの友達です」
二本の足で立つ仔羊ニコは、電気仕掛けで動く自立型のロボットだ。
とある事情によりソウルミューの妹であるリズムが預かっており、ソウルミューの家にいたディスとは友人関係だった。
メディスンはディスの返事を聞くと、自分の後について来るように言った。
ディスは言われた通りに、ニコを抱きながら彼の後について行く。
「この街のことは聞いているな?」
「はい、それで俺の配属先なんですけど……」
「君は第三班、ブラッド班長のところに行くことが決定している」
「じゃあリズムと同じですね! やったッ! やったぞニコッ!」
ツギハギだらけの顔を緩ませてディスが笑う。
ニコも一緒になって嬉しそうに鳴いている。
そんな彼を横目で見て、メディスンが呆れている。
自分の立場を理解しているのかと。
「はしゃぐのは構わんが、この街で数日過ごせば、そのうち嫌でも帰りたくなるぞ。ここはそういうところだ」
「それはありませんよ」
「なに?」
思わず足を止めてしまったメディスンに、ディスは答えた。
自分はリズムを追いかけてこの街――アンプリファイア·シティへ来た。
だから彼女がこの街にいる限り、絶対に帰りたくなることはないと、ハッキリと言い切る。
真っ直ぐな瞳を向けられたメディスンは、すぐに目を逸らすと再び歩き始めた。
ツギハギだらけのいかつい顔のわりには、ずいぶんと爽やかな奴だと思いながら、メディスンはその理由を聞いてまた呆れる。
「それよりも、わざわざ第一班の班長さんが来てくれるなんて思いませんでしたよ」
「第三班は現在仕事中だ。他の班員たちも忙しく、動けるのが私だけだったからな」
「やっぱり聞いた通りだ」
「何がだ?」
ディスは答える。
お世話になったソウルミューが言っていた。
メディスン・オーガニックは進んで面倒を引き受ける人間だと。
「だから、絶対に出世できない人だって言ってましたよ」
「ソウルミューの奴……相変わらずだな。ズケズケ言いたい放題言ってくれる」
「それと、神経質で一見冷たいし、人を見下した態度の男だけど、あいつほど信用できる奴もそうそういないとも」
「褒められてる気がせんな……。無駄話はマーシャル・エリアに着いてからにしよう。これからことは車内で話す」
そして、駐車してあった車に到着。
二人が後部座席に乗り込むと、自動車は発進した。




