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その叫びを聞いたライザーが叫び返す。
「ダメだッ! 連合国は信用できない! お前がこっちに来いよッ!」
「いいかライザー! 連合国はクソだが、少なくとも信用できる大人もいるんだよッ! メディスン·オーガニックって、お前らも知ってんだろ!?」
「そいつ一人で何ができるんだ! 結局お前らは連合国の犬になって戦わされてるじゃないか!?」
「それはドクター·ジェーシーのとこにいたって同じだろうがッ! 信用できんのかそいつはよッ!? お前らの脳みそを弄って戦わせている女なんてよ!」
「今の話にお母様は関係ないだろうッ!」
そこから、ムドとライザーの言い争いが始まった。
それは二人の年齢――。
十代の少年がするような口喧嘩と変わらないものだった。
互いに、相手を納得させるような理屈や論理などなく、ただひたすら感情的になって言葉をぶつけ合っているだけだ。
「やめろ二人共ッ! そんな言い争いをしてどうするッ!?」
そんな状況を見かねてハイファが声を張り上げた。
彼女はムドとライザーを交互に見ながら、必死に口喧嘩を止めさせようとしていた。
だがそのとき、突然食堂内に轟音が鳴り響く。
そして、ムドとライザーの目の前で、ハイファがバタンと倒れた。
「ハイファァァァッ!」
ライザーが取り乱して彼女に駆け寄った。
一方ムドは何が起きたのかわからず、その場に立ち尽くしてしまっていた。
ライザーがハイファを抱いたまま声を張り上げる。
「どこのどいつだッ!? 出て来いッ! オレがぶっ殺してやるッ!」
ライザーがそう叫んだ瞬間――。
彼は飛んできた電磁波に当たって気を失った。
ムドが電磁波の飛んできた方向を見ると、そこにはオレンジの髪色したツギハギだらけの少年がバヨネット·スローター構えて立っていた。
「ディス……? お、お前……」
「ナイスだよ、ムド。君が注意を引きつけてくれたおかげだ」
困惑しているムドに微笑み、ディスは食堂内へと足を踏み入れた。
そしてバヨネット·スローターの銃口を、倒れたハイファとライザーへ向けながら見下ろしている。
「おい、何してんだよッ!?」
「何って? リズムを傷つけたこいつらを殺すんだよ」
「バカ止めろッ! こいつらを殺すなッ!」
「殺すな? ムド、君は何を言っているんだ? こいつらは俺たちの敵だろう?」
ディスは、慌てて止めて来たムドに向かって首を傾げていた。
そんな彼に対し、ムドは必死に説明をする。
「こいつらは好きで襲ってきたんじゃねぇ! ドクター·ジェーシーに言われてしょうがなくッ!」
「この状況を見て、君はそんなことが言えるのか……」
ディスはムドから視線を動かした。
彼の見る先には、軍警察署の職員たちの死体が転がっている。
ムドはそんな職員たちの死体を見ると口をつぐんでしまった。
ディスの言う通りだ。
ハイファとライザーは、非戦闘員である職員たちを、男も女も関係なく殺した。
そして、リズムとパロマを襲った。
二人を始末しようとしているディスは、何も間違っていないのだ。
だが、それでもムドは彼を止める。
「こいつらには、罪を償わせるんだ……。それに、殺してしまったら敵の情報が手に入らないだろ? こいつらにはまだ生きてもらわないと……」
訴えかけるように言うムドに、ディスはバヨネット·スローターを下ろした。
それから、彼は気を失っているハイファとライザーを拘束する。
「たしかにそうだね。だけどムド、俺はこいつらを許すつもりはないよ。リズムを傷つけたこいつらを絶対に許すもんか」
ムドは、淡々と言葉を続けるディスを見て、何も言えずただ立ち尽くしてしまっていた。




