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「オレはお前たちの言う通り……連合国が嫌いだ」
「そうだと思ったよ。お前だけではないだろう。才能の追跡官のほとんど人間が同じ気持ちのはずだ」
ハイファは、震えるムドに向かって寄り添うように返事をする。
「こうやってワタシたちが戦っていること自体がおかしいんだ」
ムドはハイファを解放した。
介抱された彼女はムドに身体を向ける。
けして警戒などをせずにリラックスした様子で、俯く彼に向かって言う。
「ムド·アトモスフィア、ワタシたちと一緒に連合国を倒そう。もう二度とワタシたちのような悲劇を繰り返さないために」
ムドが顔を上げると、そこには手を伸ばすハイファの姿があった。
彼女の後ろには、同じように両手を左右に伸ばし、掌を見せるライザーがいる。
ハイファとライザーは、ムドが自分たちの手を取ってくれると思ったが――。
「それでも、今の生活は気に入ってんだ。わりぃが一緒には行けねぇよ」
彼は二人の誘いを断った。
理解できないといった表情をする二人へ、ムドが言う。
「連合国はたしかにクソだ。でも、その中でも優しかった大人もいた……。尊敬できる男がいた……」
ムドはハイファから距離を取ると、バヨネット·スローターを構える。
「その人を……お前たちの仲間は殺したんだ。世話になった人に不義理はできねぇ」
「ムド·アトモスフィア! お前はそいつに騙されてるッ! 洗脳は連合国の常套手段なんだぞ!」
「ライザーつったっけ? あの人のことを悪く言わねぇくれよ。あの人は……ブラッド・オーガニック班長は、生まれて初めてオレのことを褒めてくれた大人だったんだ」
ムドはバヨネット·スローターの銃口を二人に向けながら、泣きそうな顔して言葉を続ける。
「頼む二人ともッ! このまま大人しく捕まってくれッ! お前たちのことは、今の班長にお願いして絶対に悪いようにはしねぇから!」
そして、今度はムドが二人を説得し始めた。
ムドは悲願するように叫ぶ。
連合国は信用できないのはたしかだ。
だが、今の自分には仲間がいる。
出会ってから月日こそ長くはないが、互いに命を預け合った家族同然の人間たちだ。
それは、ハイファやライザーにもわかるだろう。
この短い時間で、二人が自分と同じ人間だということは理解できた。
だからこそ――。
そうだからこそ――。
自分に投降してくれと。
ムドは叫び続けた。
「ドクター·ジェーシーの施設にいたヤツもオレらの仲間にいる! ブルドラとディスって二人だ! だから連合国の連中はお前たちを捕まえて殺したりしねぇよ! 上手くやれば才能の追跡官になってオレたちの班に入れるってッ!」




