014
――その後、パロマとムドが捕らえた赤い開拓者たちを連行するために、連絡を受けたブラッドとリズムがパブに到着。
事の経緯を訊ねるブラッドに、パロマは苦虫を噛み潰したような顔で説明していた。
まず、リズムが捕らえたデカダンス·レイヴァーの男――。
チルドの情報を聞き、彼の恋人から事情聴取しようとしたこと。
そして、その恋人が出入りしているという店に来ると、赤い開拓者も彼女を追っていて交戦なったこと。
それから結局は逃げられてしまったことを伝える。
二人の報告を聞き、班長であるブラッドは呆れて自分の坊主頭を掻いていた。
「それにしても、お前らちょっとやり過ぎ」
「ですよね……」
ムドがアハハと乾いた笑みを浮かべる。
だが、パロマは不機嫌そうに言い返す。
これは完全な正当防衛である。
現れた赤い開拓者は、集団でしかも拳銃を所持していて発砲までしてきた。
まさか、そこまでされておめおめ逃げればよかったのかと、パロマは静かながら怒気のたっぷり含んだ声を出した。
ブラッドはそんな彼女の肩にポンッと手を置き、笑顔を向ける。
「別に説教してぇわけじゃねぇって。お前の判断は正しい。だけどよぉ、お前やムドくらい強いんだったら、もっと手加減できただろって言いてぇんだ」
そんな班長の言葉に、ムドはホッと胸を撫で下ろしていた。
パロマのほうも強張っていた表情を緩め、頭を下げ、ブラッドの言う通りだと謝罪する。
だかそれは、彼女が心から思っていることではなかった。
(フン、何がやり過ぎだ。これまで散々人を殺してきたお前が言うな)
その内心では、ブラッドに対する不満が溢れていた。
彼女の故郷であるストリング王国は、現在のように世界が一つとなった連合国となる十年前――。
ストリング帝国という名で世界を統べる立場にあった。
その後、暴走したコンピューターが世界を襲い、その後に起きたアフタークロエと呼ばれた戦争や二年前の崩壊戦争を経て、帝国は王国となる。
崩壊戦争では、戦乱を引き起こしたとしてストリング帝国の将軍だったローズ・テネシーグレッチが討たれたことで決着はついたが。
その後の各国のストリング帝国へと攻撃により、彼女の両親は戦死。
その後に、ストリング帝国はストリング王国と名を変え、現在は連合国の属国となったが、辛い立場に置かれた弱小国家と成り果てた。
パロマは思う。
お前たち連合国のせいでお父様とお母様は死んだのだと。
(いつか見てろ。私がのし上がって、ストリング王国を以前のような強国に戻してみせる。そのためにも、今は言うことを聞いておいてやる)
そんなことを考え、頭を下げているパロマに、リズムが声をかけてくる。
「そうだよ。パロマはとっても強いんだから、その力は人を傷つけるためじゃなくて守るために使わなきゃね」
視線をリズムに向けて、パロマは思う。
(お前もだ、リズム・ライクブラック。せいぜい血塗れの聖女とおだてられて粋がっているがいい)
パロマがそんなことを思っているとは知らずに、リズムは言葉を続ける。
「それにパロマは頭も良くて美人で剣の達人で、え~と……そう! キレイな金の髪に透き通った青い目もステキで……」
「おい、リズム。そんなに褒めて何がしてぇんだよ……」
能天気にパロマの良いところ言い続けるリズムを見て、ブラッドが呆れていた。
ムドはそんな光景を見て笑うが、当然パロマの顔に笑みはなかった。




