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タイニーテラーは薄ら笑いを浮かべながら局長室へと入って来た。
メディスンは、後退りしながらバヨネット·スローターの銃口を向ける。
「ずいぶんと大胆だな。才能の追跡官本部を狙うとは」
「連合国を相手にパーティーをやろうってんだ。盛り上げるために、そんぐれぇはやんなきゃな」
銃口を向けられても、タイニーテラーはゆっくりとメディスンはへと近づいていく。
メディスンが訊ねる。
「今、オレンジ·エリアで橙賊が暴れているそうだ。そいつもあんたのパーティーの催しか?」
「あぁ、パーティー会場以外でも盛り上げたくてな。それに、あいつらも暴れたくってしょうがなかったんだよ。いつまでも連合国の犬にこの街にいてほしくねぇってさ」
「それが、帝国と手を組んだ理由か? 初めから私たちに協力するつもりなどなかったということか……」
「半分正解……ってとこだな」
「半分正解だと?」
メディスンは思わずオウム返ししてしまった。
タイニーテラーたちが、才能の追跡官を裏切っってストリング帝国と手を組んだのは明らかだ。
それなのに。
もう答えが出ているというのに。
この男は一体何を言っているのだろうと、表情を歪める。
「さすがだな。動揺していても、銃口が一切ブレてねぇ」
「答えろ、タイニーテラー。あんたの目的はなんだ? 答えなければ、この場で撃ち殺す」
「おうおう、こえーなぁ」
「脅しだと思うのか?」
メディスンは、けしてタイニーテラーとの距離を縮めずに言葉を強めた。
先ほどの動揺はすでに消え、今は返答次第でタイニーテラーを撃ち殺す氷のような表情へと変化している。
だが、タイニーテラーはむしろ嬉しそうに笑っていた。
さすがに近づくのは止めているが、メディスンの切り替わった表情を見て喜んでいるようだ。
「ハハ、その顔が見たかった。オヤジを裏切ったその冷てぇ顔がな」
「オヤジ? 私はあんたの父親など知らんぞ」
「血の繋がった親の話じゃねぇよ。クズの話なんかすんな。反帝国組織、バイオナンバーを創ったお前の、いやオレらの義父のことだよ」
「……あんた、バイオの義父を知っているのかッ!?」
バイオとは、メディスン、エヌエー、ブラッドたち、かつてストリング帝国と戦争をしていた組織――バイオナンバーの出身者の親代わりであり、リーダーだった男だ。
メディスンたちがまだ幼い頃。
世界では、合成種という人型の化け物が暴れ回っていて、それを排除するためにストリング帝国は軍隊で武力行使。
合成種を世界から排除するために動いた。
だが、ストリング帝国は合成種を駆逐すると共に、各国も制圧。
その圧倒的な武力により、多くの国が帝国の占領下に置かれた。
そのやり方に反発して結成されたのがバイオナンバーだ。
リーダーだったバイオは、合成種の親を殺された者や、帝国から逃げてきた者を自分の家族とし、彼らにゲリラ戦を仕掛けていた。
それから数年後、アフタークロエという戦争が起こり、ストリング帝国はバイオナンバーに敗北。
それからバイオニクス共和国が創られ、共和国は世界を統べた。
しかし、それも長くは続かず、宗教団体のテロ行為によって世界は崩壊寸前に陥り、ストリング帝国が台頭。
そのときの戦争に参加した各国が手を取り合い、連合国の基礎が生まれる。
その後、戦争自体はある少女の活躍によって、帝国が無力化されたこと終結。
現在に至る。
そんな歴史の中で、かつてストリング帝国の弾圧から民衆に勇気を与えた男――バイオは、帝国に勝利したことも合成種が世界から消えたことも知らずに亡くなっていた。
その原因は――。
「うるせぇよ。お前には、バイオの義父を裏切った報いを受けてもらう」
そう言ったタイニーテラーから察するに、その死にはメディスンが関わっている。
バイオが彼のせいで亡くなったことを知っている。
「あの世で義父に謝って来いよ」
タイニーテラーは笑いながら、そうメディスンに言葉を続けた。




