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パロマは昨夜にオレンジ·エリアで戦った襲撃者二人の気配を感じ取っていた。
これは、マシーナリーウイルスの能力一つで、その名をPersonal linkというものだ。
Personal link通称P-LINKとは、マシーナリーウイルスの適合者や、特殊な人間同士の意思の疎通を可能にする力――精神感応に近い能力である。
これには個人差があり、適合者や強制者の中でもP-LINKに特化した者や、ウイルスによる機械化――装甲の強度などの差が出てくる。
パロマは他のウイルス保持者よりもP-LINKの適正が高かったのだろう。
それと、才能の追跡官連合憲兵総局の局長であるリプリント・イーストウッドに直談判し、マシーナリーウイルスのさらに体内に注入したことで、彼女の感応力が上がっていたのだ。
「えッ!? 昨日の人たちがここに来ているのッ!?」
「あぁ、もしかしたら、タイニーテラーと手を組んでいるのかもしれん」
「でもそれだと、なんでタイニーテラーさんはわざわざアタシたちに帝国が来たって知らせてくれて、その後に襲わせたの? そんなまどろこしいことしないで、あの立ち飲み屋のときに襲えばよかったのに」
たしかにそうだ。
――と、パロマは思う。
だが、それ自体がタイニーテラーの狙いだとしたらと、彼女は思考を巡らせていたが。
「今は考えるよりも非戦闘員の保護を優先する。急ぐぞ、リズム」
「だねッ! タイニーテラーさんが悪いことを考えてるなら、アタシたちが捕まえちゃえばいいもんね」
「簡単に言ってくれる……。お前のその楽観的なところは、すでにサイコパスの域だな」
「誰がサイコパスだよ! こんなときにふざけないでッ!」
冗談の延長だと受け取って怒ったリズムだったが、パロマは本気そう彼女のことをサイコパスだと思っていた。
それは、いつでも前向きなことを言うことや、彼女の持つ行き過ぎた利他的精神構造からだ。
しかし、そういうリズムだからこそ、幼い頃に凄惨な戦場で衛生兵的の立場にいれたのだろうが。
パロマがそんなことを考えていると、突然女性の悲鳴が聞こえてきた。
その叫び声は食堂のほうからだった。
二人は行き先を受付から食堂へと変更。
そして、辿り着くとそこには――。
「やはりこっちへ来たか……。リズム·ライクブラック、それとパロマ·デューバーグ」
二人の男女が職員たちと共いた。
男はハリネズミのようなツンツンヘアに、髪の色は黒に赤いメッシュ。
そして、女のほうは銀髪の毛先が軽くカールしているミディアムヘア。
タイニーテラーが言っていたストリング帝国軍大尉――ネア·カノウプスといたと聞いた二人が立っている。
背格好や顔を見るに、リズムやパロマとそう変わらない少年少女だ。
「あなたたち……何をやっているのッ!」
声を張り上げたリズム。
先ほどとは別人の形相で叫んだ彼女の見た光景は、皆殺しにされた職員たちの屍の山だった。




