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敵に身を晒しながらパロマは思う。
こんな作戦、少し前の自分には考えられなかった。
自らを囮に敵を倒そうなど、愚か者以外何者でもない。
昔の自分がこの現状を見れるのならば、間違いなく怒声を浴びせるだろう。
パロマはなんとしても手柄を立て、連合国内で立場の悪い故郷――困窮するストリング王国を救わなければならないという使命があった。
そのために、嫌悪感を覚える連合国の上司たちに追従し、好きでもない班員たちとも協力してきた。
そして、強くなるため――戦える力を得るために、マシーナリーウイルスを体内に注入し、才能の追跡官に志願した。
マシーナリーウイルスは適合する者でなければ、全身から脳まで機械化し、自我を完全に失ってしまう危険がある。
今でこそ医療技術、科学技術が発展し、ウイルスを強制的に適合させることができているが、それでもいつ機械人形へと変わってしまうかわからない。
実際に、パロマと共に国のために連合国軍へと入隊したストリング人の多くが、自我を失って機械人形となって軍に処分されている。
それでもパロマは生き残った。
機械化で全身を襲う激痛に耐え、自我を保ち、見事マシーナリーウイルスの侵食に打ち勝った。
パロマ以外での成功例は、マローダーやシヴィル――それとかつてのストリング帝国で将軍をしていた、現在もまだ行方不明中であるノピア·ラッシクだけである。
けしてリズムのように、困っている人間を救いたいという善意の気持ちからではない。
だが、彼女を庇って亡くなった第三班の班長――ブラッド·オーガニックの影響か。
パロマは自分の使命を忘れたわけではないが、それまでは考えられない自己犠牲の精神に突き動かされていた。
(こんなこと、誰にも言えんな……。だが、死ぬために身体を張るわけではない!)
内心で自嘲しながらパロマは歩を進める。
「次が来るぞリズム!」
パロマが叫んだ瞬間に銃声が街中に鳴り響いた。
再び機械化した腕で防ごうとしたパロマだったが、銃弾は彼女を狙わずに側にあった郵便ポストに当たった。
ポストに弾かれた銃弾が、パロマの背中と両足に被弾。
彼女は傷口から血を流しながら、その場に崩れる。
「くッ狙ってやったのかッ!? バカな、あの位置からポストは見えないはずだろうッ!?」
パロマに対して敵がやった攻撃は跳弾というものだ。
跳弾とは、目標に命中しなかった弾などが壁、岩、舗装、装甲板などに当たって跳ね返る現象のこという。
装甲した身体に銃弾が通らないことを理解した襲撃者たちが、パロマの裏をかいたのだ。
「パロマッ!」
「私の心配をしている場合かリズムッ! 敵から目を逸らさずに、次の攻撃で必ず仕留めろッ!」
そう叫ぶと、パロマは立ち上がって銃弾が飛んできた方向へと歩き出す。
リズムは今の狙撃で相手の位置を把握していた。
前方に見えるアパートの屋上と、その隣の建物だ。
襲撃者たちはパロマを仕留めるつもりなのだろう、移動せずにライフルを構えている。
「ぐおッ!?」
そして銃弾が放たれ、動きの鈍ったパロマはすべての攻撃を防ぎ切れずに、今度は右肩を貫かれた。
もうもたついている時間はないと、リズムは両足から気を放ってその勢いで飛び出す。
「これ以上はやらせないよッ!」




