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今は銃弾が飛んでこない。
おそらく、車の陰に隠れられない位置から狙撃するために、移動しているのだろう。
動くなら今がチャンスだ。
「行くぞ」
そして、パロマは車の陰から路地裏まで走った。
リズムは周囲を警戒しながら彼女の後を追う。
パロマの予測通り、襲撃者は移動していたのか、銃弾が飛んでくることはなかった。
無事に狭い路地裏へと入り、左右を囲む壁に背をつけて、再び周囲を確認する。
「とりあえずは安心といったところか」
「さすがにどんな名スナイパーでも、こんな狭いところを狙えないもんね」
一先ずは危機を脱したかと思われたリズムとパロマだったが。
次の瞬間、路地裏が真っ赤に染まる。
まるで壊れた水道管から噴き出した水のように血が撒かれる。
突然の狙撃でパロマの左足が撃ち抜かれたのだ。
「パロマッ!?」
リズムは慌てて彼女の身体を支え、銃弾が届かない路地裏の奥へと進む。
「待っててね。すぐに治してあげるから」
リズムはパロマを地面に座らせると、彼女の足の傷を見た。
出血こそ派手だったが、銃弾が貫通したこともあり、傷自体は大したことなさそうだ。
もし足に弾が残ってしまっていたら、強引に取り出してからでないと治療ができなかったであろう。
これは不幸中の幸いだと、リズムはパロマの足に自分の掌を翳す。
彼女の手に、次第に光を纏い始めた。
その眩いばかりの光は、まるで生命の輝きを感じさせるものだった。
光を纏った手が傷口に触れると、血が止まり、ゆっくり傷が塞がっていく。
これがリズム能力。
彼女がマスター・メイカから教わった時の領地に伝わる秘術だ。
「これでもう大丈夫だよ」
「あぁ、助かる」
但し、この相手に気を送って治療する技は、他の時の領地の術よりも、使用者の負担が大きい。
実際に、パロマの傷を治したリズムの顔には生気が失われていた。
「リズム、顔色が悪いが大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫だよ! これくらいでへこたれてられますかっての。もっとジャンジャン怪我しちゃってッ!」
「いや、それは遠慮させてもらう……」
パロマがリズムの言葉に呆れていると、再び銃弾が飛んできた。
この狭い路地裏、しかもこんな周囲から確認できない位置をどうやって狙っているのか。
二人は身を屈めてながら襲撃者の攻撃方法がわからずにいた。
「クソッ!? これは敵の能力かッ!? こんな場所を狙い撃ちなど、どんな凄腕でも無茶だろうッ!?」
「マズイよパロマッ! このままじゃやられちゃうよッ!?」




