012
自分たちが入って来た出入り口から、上下真っ赤な燕尾服とそれらの服装と同じ赤いシルクハットにガスマスクの集団が入って来た。
アンプリファイア・シティにある区域の一つヴォックス・エリアを取り仕切っているマフィア――赤い開拓者だ。
この街には四つの区域があり、パロマたちが派遣された軍警察――才能の追跡官のビルがあるマーシャル・エリア。
さらにハイワット・エリアとオレンジ・エリアに、先に述べたヴォックス・エリアがある。
赤い開拓者は、主にヴォックス·エリアにあるナイトクラブを仕切っており、縄張りから滅多に出ることはないはずだが。
パロマは目が痛くなるほどの赤い集団を見てそう思っていると、他の客たちが慌てて店を出て行く。
これから何か荒事が始まるのだと思ったようだ。
店から出る客らを尻目に、赤い開拓者の集団は、パロマたちが狙っていた人物がいるトイレの前へと向かってきた。
パロマは集団の前に立ち、指にはめた機器からホログラムを出して身分を明かす。
「私たちは才能の追跡官だ。この店で何かするつもりなら、すぐにでも捕らえるぞ」
馬鹿正直に名乗ったパロマ。
それを見ていたムドは、自分たちの格好――黒い制服に白いショート丈のコートを見れば名乗らなくてもわかるだろうと、呆れている。
赤い開拓者の集団は、それぞれ拳銃を手に取り、一斉にパロマとムドへ向ける。
「ほう、私と戦うつもりか? いいだろう。私のような若輩者が、どうして才能の追跡官に選ばれたかを、その身を持って教えてやる」
「おい、オレがいることを忘れてねぇか」
ムドがボソッと呟くが、パロマは無視して剣を抜刀。
軍刀――夕華丸を抜く。
バチバチと火花を散らす刀が赤い集団へと向けられた。
だが、パロマが斬り掛かる前に発砲。
無数の弾丸が彼女とムドを襲う。
「装甲ッ!」
パロマが叫ぶと、彼女の腕に白い鎧甲冑のようなものが覆っていく。
そして、完全に腕が機械化。
向かってきた弾丸を弾き返す。
パロマは、マシーナリーウイルスという彼女の生まれた国――ストリング王国によって開発された後、生体兵器の研究用途に転用されたもの体内に注入してる。
このウイルスは、体内で一定の濃度まで上がると成長し、宿主の身体を機械化する。
機械化したものは、人体を超えた力と速度で動けるようになるが、宿主は自我を失い、完全なる機械人形へと変わってしまう。
だが、パロマは適合者と呼ばれる数少ない人間の一人だった。
まだ体内にあるウイルスの濃度は抑えられているが、現在確認されているだけでも五人しかいない、自我を失わない者の一人である。
赤い開拓者たちが、パロマの機械装甲を見て怯む。
「さあ、今度はこちらから行こうか」
そして、パロマは夕華丸の刀身を彼らに向けた。




