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タイニーテラーは答える。
現れたネアは男と女二人の人物を連れていて、自分に紹介してきた。
どうやらその二人を、オレンジ·エリア――橙賊に入れてあげてほしいという話のようだ。
「男と女って、つってもお前さんたちと同じくくらいの子供だったけどな」
「その二人の特徴とか、名前を教えてもらえますか?」
さらに訊ねるリズムに、タイニーテラーは続けて答えた。
二人のうちの一人の名はハイファ·ローランド。
銀色の髪に毛先が軽くカールしているミディアムヘアの十代半ば少女だと思われる。
そして、もう一人の名はライザー·ローランド。
髪の色は黒に赤いメッシュが入っており、ハリネズミのようなツンツンヘア。
この少年もまたハイファと同じく十代半ばだろうと、タイニーテラーは言う。
「フードを被っていたからな顔までよくわからなかったが、今言った特徴で間違いないと思うぜ」
タイニーテラーの言った名前に、リズムとパロマは息を飲む。
「ローランドってことは、あのメガディと同じブレインズ……」
「あぁ、その名からして、ドクター·ジェーシーに造られた奴らだろうな」
ブレインズとは、こないだの廃工場で戦ったメガディ·ローランドのことだ。
それにはディスやブルドラも含まれており、端的にいえば、ストリング帝国の科学者であったドクター·ジェーシー·ローランドが造り出した改造人間のことである。
リズムたち才能の追跡官の班員には、かつて世界を統べていたバイオニクス共和国の負の遺産ともいうべき、人体実験により生まれた特殊能力者が大半を占めている。
そういうこともあり、特殊能力者自体はそこまで珍しくもないのだが。
ブレインズの持つ能力は、電子ネットワークや自身の脳を使用するという他の者とは毛色が違うものだった。
その一つが真の通路。
特殊な電波を脳から飛ばし、電子ネットワークへ意識を送り込む能力である。
そして、メガディやディスが使っていたスイッチング·ブースト。
利き足の踏みつけを合図とし、特殊な電波を脳内に巡らせる。
さらにそこから脳髄を歪ませてることで、自身の身体能力を限界まで引き出すことのできる力だ。
さらに、相手の動きを最速で脳が演算できるため、数秒後に何をして来るかを把握することができるが。
その分自身の脳への負担は凄まじく、使用し続けると脳髄が歪み、自我や記憶を失って廃人と化す恐れがあるということが、捕らえたメガディの身体を調べたことでわかっていた。
リズムはそのこと昔から知っていたのもあって、ディスが才能の追跡官に入ったことに、今でも良い感情を思っていない。
「ドクター·ジェーシーか。また古い名が出てきたな」
「タイニーテラーさんは、ドクター·ジェーシーを知っているんですか?」
「あぁ、よく知ってるよ」
リズムとパロマは、そう言ったタイニーテラーの顔がどこか嬉しそうだったことに、妙な違和感を覚えた。




