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――パブ内は、多くの客がいて混雑していた。
店内を見るにテーブルや椅子などはなく、どうやらこのパブは立ち飲みしかできないようだ。
他の客はすでにかなり酔っぱらっているのか。
才能の追跡官の制服を着たリズムたちを見ても、誰も気にも留めていないようだ。
「パロマ見て、ナイトスイーツだって! お酒以外にも食べ物ありそうだね。あッ、ポテトフライもあるよ!」
「お前……さっきまでの怯えをどこへ捨ててきた」
パロマは、食べ物のことではしゃぐリズムを見て、なんだかんだで肝が座っていると思い呆れた。
騒がしい客でごった返す店内を進みながらパロマは思う。
こんなところで待ち合わせなど、タイニーテラーに話をするつもりがあるのか。
こんな人の目だらけの、しかも飲み屋など、大事な情報を話す場所とは思えない。
それと、リズムを指名して呼び出した理由も気になる。
もしかしたら、これは罠かもしれない。
パロマは、パブに呼び出したタイニーテラーに対して疑念を持っていた。
「……油断するなよ、リズム。こいつは嵌められた可能性がある」
「えッホントッ!? なら早く逃げたほうがッ!」
「落ち着け。私は可能性があると言っただけだ。だが、気持ちを引き締めておけ。何をされるかわかったもんじゃないからな」
「う、うん。あッいた!」
パロマが用心するように伝えると、突然リズムが声を張り上げた。
彼女が叫んだの先には、オレンジの腕章を付けた中年男性の姿があった。
オレンジ・エリアの代表にして、橙賊の頭領――タイニーテラーだ。
パロマは間違いないなとリズムに確認を取ると、タイニーテラーのもとへ行き、声をかける。
「失礼、私は才能の追跡官第三班のパロマ·デューバーグです。コラスCEOから連絡を受け、リズム・ライクブラックと共に来ました。早速お話をお聞きしたい」
「なんだなんだ? ずいぶんと無粋だなぁ、金髪の姉ちゃん。いきなり情報だけを聞きたがるようじゃ、出世できねぇぞ」
こんな店を話し合いの場所に選んだ男に、自分の出世の心配をされたくない――。
パロマは内心て苛立ったが、顔には出さずに淡々とした口調で言葉を返す。
「初対面で無粋な真似をしたことは謝罪します。しかし、こちらも余裕があまりないのです。少しでも早く帝国の情報が聞ければ、それだけ街を守るための対処が素早く行えます」
「絵に描いたような“ですます調”だなぁ。後ろにいる血塗れ聖女さんも同じ考えかい?」
リズムも前へと出て、コクッと頷く。
無言で「さあ、早く話せ」と圧力をかけるリズムとパロマ。
だが、タイニーテラーはそんな二人に向かって二カッと歯を見せる。
「わけぇのが、そんな焦ってどうする。まずはメシだ。まだ食ってねぇんだろ?」
そう言ったタイニーテラーが指をパチンと鳴らすと、美少年二人がリズムとパロマに料理を運んできた。
この騒がしい店内で、一体どうやって聞き取れたのかわからなかったが、美少年二人はリズムたちの前にあるスタンドテーブルに料理を置く。
その背伸びして料理を置く姿を見て、リズムが心配そうな顔であたふたしていた。
タイニーテラーは美少年二人を労うと、リズムたちへ言う。
「さあ、食ってくれよ。ここは酒も旨いがメシも最高なんだ」




