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――リズムとパロマは、才能の追跡官のビルへと来ていた。
二人はすでにトレーニングウェアに着替え、一汗掻いた後だ。
「よし、じゃあ次は自由組み手といくか」
「オッケー。でも、能力を使うのはなしだからね」
筋力トレーニングのための器具がある場所から、リングではなく稽古場のあるところへと向かうリズムとパロマ。
だが、珍しく今日は先約がいたようだ。
稽古場の真ん中で、実戦練習用の人型ドローンに囲まれている男の姿が見える。
「あれは、マローダーさんか?」
気が付いたパロマがそう言うと、リズムが慌て出した。
いくらなんでも、三体同時に相手にしては大怪我をする可能性がある。
マローダーがいかに強くともこんなトレーニングは無茶だと、彼女は彼のもとへ駆け出す。
「危ないですよ! って、うわぁぁぁッ!」
しかし、リズムが走り出した瞬間、三体いたドローンはすべて斬り倒された。
それを見たリズムは慌てて急ブレーキ。
だが、急に止まることができずに、そのままマローダーの前で派手に転がってしまう。
「お、お疲れ様です……マローダーさん……」
「体を張った良い挨拶だと思うが……。変わってるな」
そして、リズムがマローダーを見上げながら挨拶すると、彼は不思議そうな顔をして返事をした。
そこへ、パロマが呆れながらやって来る。
「何をやってるんだ、リズム。マローダーさんがあの程度のトレーニングで、怪我などするはずがないだろうが」
「で、でも、いくらなんでも三体はムチャだよ。それにほら、やっぱり設定MAXにしてるし」
このトレーニング施設にある器具も、そして人型ドローンも、すべてボス·エンタープライズが用意したものだ。
筋力トレーニング用の器具はどこにでもあるありふれたものだが。
人型ドローンのほうは最新のものである。
まずイージー、ノーマル、ハードと三つの強さの設定ができ、さらにそこへからドローンの戦闘スタイルも選択できる。
様々な格闘技から、様々な剣技をシミュレーションできるドローン。
命懸けの仕事をしている才能の追跡官たちにとって、まさに絶好の訓練相手だ。
その強さは、ハードに設定されたドローンなら、いくら特殊能力を持つ班員たちでも勝率は半分といったところだ。
その中でも一番勝率が高いのがラウドで、彼はよくドローンを壊しては始末書の山を築いている。
「大丈夫って言ったってもしものこともあるし、訓練で怪我したら元も子もないじゃないですか?」
リズムがそう言うと、マローダーは持っていたブレードを腰に収め、その場に置いてあった訓練用の剣を手に取った。