#記念日にショートショートをNo.68『ゆきあかり』(White Lamp)
2023/2/17(金)天使のささやきの日 公開
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なし
半地下の薄暗い部屋、ひとつだけのほのかなランプの灯の下で、本を開く。紙縒りを外し、文字を目で辿っていく。
物語を辿りながら、ふと彼女を思い出す。
いま、彼女はどこにいるのだろう。
どこで、何をしているのだろう。
一度会っただけのその人を思い出す。
されど、たった一人だけの、大切なその人を。
きらきらと粉雪が静かに舞っていたあの白い冬の日、僕はただ無性に、恋に落ちた。
勤務先の大学病院からの帰り道、真っ白い雪の絨毯の道の上に、電話ボックスがあった。
やがて電話ボックスの扉が開くと、黒髪を胸のあたりまで真っ直ぐに伸ばし、真っ白なコートに身を包んだ小柄な少女が、雪の世界に降り立った。
図らずとも、少女と目が合った。そして真水が流れるように言葉が漏れる。
「…愛………?」
「…優………?」
僕は彼女のことを知らない。また彼女も、僕のことを知らなかった。
でもなぜか、その時、唐突にその名前が降りて来て、あの確かな記憶と、声も形も、すべてが一致した。
気付けば、お互いを抱き締めていた。いまにも雪の中に溶けてしまいそうな、その小さな身体を抱き締める。ぬくもりを感じながら、僕らはお互いに一日の始まりの挨拶をするかのように、結晶のようなキスをした。
「会いたかった」
「僕も」
僕らはお互いをお互いに遥か昔から知っていた。僕らは知己であるかのように、何も疑うことなく、何も恐れることなく、まるでそれが真実であるかのように、指先を絡め合った。
家に帰ると、彼女が台所でココアを淹れてくれた。
半地下の隠れ処「2.14」で、天窓から見える白い雪の絨毯が陽射しを浴びて銀色に輝くのを、マシュマロが2つ浮かんだココアを並んで飲みながら眺める。
彼女が甘えるように、僕に身体を預けて来た。
「ねえ、」
「…うん?」
「わたし、いま、ものすごく幸せだよ」
上目遣いに、彼女が僕を見る。細い髪の毛に指をくぐらせて、彼女の手を握る。
「僕も」
おでこに触れると、彼女がくすぐったそうに笑った。
半地下の薄暗い部屋、ひとつだけのほのかなランプの灯の下で、本を開く。紙縒りを外し、文字を目で辿っていく。
物語を辿りながら、ふと彼女を思い出す。
いま、彼女はどこにいるのだろう。
どこで、何をしているのだろう。
一度会っただけのその人を思い出す。
されど、たった一人だけの、大切なその人を。
あの時、僕には確かに彼女がいた。
マシュマロを2つ浮かべた、ココアを淹れたたったひとつのマグカップに目を落とす。
失ったわけじゃない、夢でも幻でもない。
それでも、あの記憶は、紛れもない僕の真実だった。
あの時、僕には確かに彼女がいたのだ。
夢でも嘘でも幻でもなく。
「愛…………」
その名前を呟いてみる。
➖あなたに、会いたい。
【登場人物】
●優(ゆう/You)
○愛(あい/I)
【バックグラウンドイメージ】
◎スピッツ(spitz)『♪ランプ』
【補足】
①タイトル候補について
『ランプ』
②キャスト名候補について
●男性:日下 作/朔(くさか さく/Saku Kusaka)
③半地下の隠れ処について
公開日である記念日「天使のささやきの日」の由来となった日本最寒記録の-41.2度から。
【原案誕生時期】
2021年10~12月頃




