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#記念日にショートショートをNo.68『ゆきあかり』(White Lamp)

作者: しおね ゆこ
掲載日:2023/04/29

2023/2/17(金)天使のささやきの日 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n9037ie/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/nb0990e5695ab)

【関連作品】

なし

 半地下の薄暗い部屋、ひとつだけのほのかなランプの灯の下で、本を開く。紙縒りを外し、文字を目で辿っていく。

物語を辿りながら、ふと彼女を思い出す。

いま、彼女はどこにいるのだろう。

どこで、何をしているのだろう。

一度会っただけのその人を思い出す。

されど、たった一人だけの、大切なその人を。

きらきらと粉雪が静かに舞っていたあの白い冬の日、僕はただ無性に、恋に落ちた。


 勤務先の大学病院からの帰り道、真っ白い雪の絨毯の道の上に、電話ボックスがあった。

やがて電話ボックスの扉が開くと、黒髪を胸のあたりまで真っ直ぐに伸ばし、真っ白なコートに身を包んだ小柄な少女が、雪の世界に降り立った。

図らずとも、少女と目が合った。そして真水が流れるように言葉が漏れる。

「…愛………?」

「…優………?」

僕は彼女のことを知らない。また彼女も、僕のことを知らなかった。

でもなぜか、その時、唐突にその名前が降りて来て、あの確かな記憶と、声も形も、すべてが一致した。

気付けば、お互いを抱き締めていた。いまにも雪の中に溶けてしまいそうな、その小さな身体を抱き締める。ぬくもりを感じながら、僕らはお互いに一日の始まりの挨拶をするかのように、結晶のようなキスをした。

「会いたかった」

「僕も」

僕らはお互いをお互いに遥か昔から知っていた。僕らは知己であるかのように、何も疑うことなく、何も恐れることなく、まるでそれが真実であるかのように、指先を絡め合った。

 家に帰ると、彼女が台所でココアを淹れてくれた。

半地下の隠れ処「2.14」で、天窓から見える白い雪の絨毯が陽射しを浴びて銀色に輝くのを、マシュマロが2つ浮かんだココアを並んで飲みながら眺める。

彼女が甘えるように、僕に身体を預けて来た。

「ねえ、」

「…うん?」

「わたし、いま、ものすごく幸せだよ」

上目遣いに、彼女が僕を見る。細い髪の毛に指をくぐらせて、彼女の手を握る。

「僕も」

おでこに触れると、彼女がくすぐったそうに笑った。


 半地下の薄暗い部屋、ひとつだけのほのかなランプの灯の下で、本を開く。紙縒りを外し、文字を目で辿っていく。

物語を辿りながら、ふと彼女を思い出す。

いま、彼女はどこにいるのだろう。

どこで、何をしているのだろう。

一度会っただけのその人を思い出す。

されど、たった一人だけの、大切なその人を。

あの時、僕には確かに彼女がいた。

マシュマロを2つ浮かべた、ココアを淹れたたったひとつのマグカップに目を落とす。

失ったわけじゃない、夢でも幻でもない。

それでも、あの記憶は、紛れもない僕の真実だった。

あの時、僕には確かに彼女がいたのだ。

夢でも嘘でも幻でもなく。

「愛…………」

その名前を呟いてみる。






➖あなたに、会いたい。

【登場人物】

●優(ゆう/You)

○愛(あい/I)

【バックグラウンドイメージ】

◎スピッツ(spitz)『♪ランプ』

【補足】

①タイトル候補について

『ランプ』

②キャスト名候補について

●男性:日下 作/朔(くさか さく/Saku Kusaka)

③半地下の隠れ処について

公開日である記念日「天使のささやきの日」の由来となった日本最寒記録の-41.2度から。

【原案誕生時期】

2021年10~12月頃

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