表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

~社蓄サラリーマン、王女の召使いに転生する~

 ああ、今日も残業か、、

 時計の針は22時を指している。勿論、残っている社員は俺だけ。同僚も、俺に仕事を押し付けた元凶である上司も既に帰ったのだ。いくらやっても終わりが見えないのは、俺の仕事が遅いからなのか。もはや日常となりつつある残業に俺は気が滅入りかけていた・・・

 新卒でこの会社に就職してきて三年半。働くというのは簡単なことではなく、嫌な事や、辞めたいと思うときも沢山あった。それでも、気が合う同僚や、厳しいけれど頼りになる上司に恵まれて、それなりに仕事をこなし、なんとかやっていた。その甲斐あってか、昇格の話が持ち上がり、今年から異動になった部署で新しい上司のおかげでほぼ毎日残業・・と言うわけである。

 ふう、、ちょっと休憩。ちらりと時計を見ると、22時50分を指していた。俺はスマホでyoutubeを開く。検索履歴を辿ると、大量に出てくる、とある猫のサムネイル。そのうちの一つの動画をタップすると、上品な灰色の毛並みの猫と、その猫の飼い主であるブロンドの美しい女性が映る。猫は女性の膝の上で撫でられて、気持ちよさそうにしている。俺はその猫の様子に癒されると共に、その猫に少しばかり羨ましいとも思ってしまう。


・・・だってあんな美女に飼われて、仕事もしなくていい、責任も持たなくていい、ご飯は好きなだけ食べてもいい、それで太っても可愛がられる、眠くなったら好きに寝れる、しかもあの美女の膝の上で!頭撫でられながら!!

そんな羨ましいことがあろうか。もはや自分との境遇の差に悲しくなってくる。あの猫前世でどんだけ徳積んだんだよ。俺だって、あの美女に、残業から帰って来たら膝枕してほしいわ!

・・などという願いは叶うはずもない。だって彼女はただの美女ではなく、ある一国の王の娘なのだ。こんなただの社蓄が会話はおろか、実際に会うことも出来ない存在である。膝枕なんてした日には俺の首は一瞬で身体とおさらばするに違いない。実際彼女のファンは世界中に居るらしく、さながらアイドルのようにテレビだけでなく、こうしてyoutubeで愛猫と共に姿を見せてくれる。

 俺からすれば、その姿を見れるだけで十分なのだ。

そう毎回思い至りながら猫を見続ける。毛量が多い毛並み、でっぷり太った身体、ふてぶてしい表情。なのに合わさると何故か『上品』に見えるのだから不思議なものである。それと同時に風格も兼ね備えているから、やはり王家の猫にふさわしい。いや、俺が評価できるわけではないが。

 動画が終わった。俺の休憩時間も終わりである。猫と美女に癒されたし、頑張らなければ。俺はスマホをしまって、パソコンに再び向かい合った・・・

 時刻は23時30分を過ぎたところだ。そろそろ終わりそうではあるのに、まだ終わらない、まだ終わらない、を繰り返してここまできた。しかし、まだ終わらない。昨日も残業で家になんとか着き、眠りに就いたのは1時くらいだった。瞼が重くなってくるのもそのせいだろう。どうせ終わらないのだ。少し仮眠しても誰にも怒られない。ここには誰も居ない。

俺はそう自分自身に言い聞かせながら机に突っ伏したのだった・・・



 「・・・ちょっと、起きなさいよ。ねえ,聞いてるの?もう5時よ!」

おかしいな、独身で一人暮らし、彼女も居ないはずなのに、何故か耳元で俺を起こそうとする女性の声がする。しかも5時って、早くないか。いつも起きるのは6時だ。あれ?まず俺、昨日家に帰ったっけ・・?たしか会社に残って上司に押し付けられた仕事をしていたはず。それで仮眠をしようとして・・・

 でも俺は今座っているのではない、仰向けになっている。でなければ背中にふわふわしたものがある理由が分からない。あまり昨日の記憶はないが、ここが家でも会社でもないことは分かった。

 寝ぼけ眼をなんとか開けると、目の前には顔はよく見えないが、メイド服を着た女の人が居た。コスプレか?しかし辺りを見回すと、部屋の外では、長い長い廊下が続いている。遠くに見えるのはシャンデリア、というやつだろうか。俺は目の前の彼女に聞いてしまった。

 「えっと、、ここは、どこで、あと、あなたは、だれですか、、?」

彼女は、はあ?と言う顔をして、俺の顔を心配そうに覗き込んだ。

 「私は、クリスタよ。昨日も一緒にはたらいていたじゃない、あと、ここは、ブリザート宮殿よ。はあ・・・仕事が出来ないだけでなく、遂に頭もおかしくなったのかしら、、」

そう言う彼女は、顔立ちは違うものの、金髪で、青い目をしているところはいつかyoutubeで見た猫を抱いた王女とそっくりだった・・・


・・・ にゃーおんっ

知らない人、知らない場所なのに、聞き覚えのある鳴き声に、思わず顔を向ける。姿は見えないが、おそらくどこかで鳴いているのだろう。

 「クリスタさん、あの鳴き声のねこは・・」

「先輩と呼びなさい。あなたはまだ見習いなんだから。あの猫はこの宮殿の主のフェリペ王女様が飼っていらっしゃるわ」

 

 フェリペ王女。その名はまさしく、昨日会社で画面越しに見た猫を抱いた美女が名乗っていた名前だった・・・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ