第一章【ペンダント】
1度家に帰り、私は拾ったペンダントを透明の小分け袋にしまい、交番へと向かった
最後の角を曲がればすぐに交番だ
何も考えずにふいっと角を曲がった私は、あまりの驚きに足が止まってしまった
交番の前に人がいた
とても綺麗な男の人
国宝級イケメン
私が通う高校、いやこの田舎で1番有名な先輩だ
今年卒業だが、東京に行くだの芸能人になるだの、スカウトされただの、そんな噂しか立たない程の有名人
カイホ先輩だ
「…え?なんで?」
校内で見かけた時は、私もみんなと一緒にミーハーになって眺めている
別に好きとかではない
本当に芸能人を見るような感覚だ
目の保養的な
学年も違う、接点もない、普通の高校生が本気で好きになっていい相手ではない事ぐらい
いくらおバカな私でも分かる
でもこうやって外で見掛けると、あまりの非日常的な綺麗さに、びっくりしすぎて腰を抜かしたようになってしまった
しかもあろう事か、カイホ先輩はこちらをくるっと向いて
綺麗な顔を
更に綺麗な笑顔にして駆け寄って来た
「え?え?え?え?」
脳内パニック、思考停止、緊急事態、頭真っ白!
なになになに?
何が起こってるの!?
人生最大のピンチなんだかチャンスなんだか
私は初めて、目が回るという感覚が分かった
でも待って!
カイホ先輩とは全く知り合いじゃない!
て、事はこれは私を通り過ぎて後ろに知り合いがいるパター…
「それ!」
私の最後の希望はあっという間に露と消えて
国宝級イケメンが私の肩をかしっと掴んだ
「ななななな」
「そのペンダント!」
ペンダントッテ…
オイシイの?
ペンダ…
ペンダン…
ペンダント!?
やっと私の脳細胞が生き返ってきた
でも今の衝撃で、確実に半分ぐらいはお亡くなりになったはず
ご愁傷様です、私の脳細胞…
それくらいカイホ先輩の笑顔の破壊力は凄まじかった
「それ俺のなの!ありがとう!」
「イッ、イエイエ。ド、ドウゾ?」
「え?君は海外生まれなの?」
「エ?イエ、ズットニホンデスね…」
ぶっとカイホ先輩が吹き出した
「なんでそんな片言なの?面白いね!」
「へ!?」
あなたのせいで脳細胞が半分ご臨終したからじゃないでしょうか!?
「す、すみません…びっくりしすぎて」
「あ、そうだよね。急に知らない男に肩を掴まれたら怖いよね。ごめんね?」
カイホ先輩は肩を掴んでいた手の力をふっと抜くと
あろう事か、私の顔を下から覗き込んできた
「ぶっ!!!」
「え!?」
あまりの衝撃に、私の脳細胞がまたお亡くなりになり
その弊害として
私は国宝級イケメンに盛大にぶちまけてしまったのだ
鼻血を
あぁ神様…
今すぐ私を殺してく
「ダメ!!!」
「!?」
「今変な事考えなかった!?」
カイホ先輩は私の小鼻をギュッと摘むと、少し私を下向きにした
そして空いてる方の手でポケットをまさぐると、ティッシュを取り出し、私の鼻血を止め始めた
「簡単に神様なんかにお願いしない方がいい」
「!?」
本当に小さな声だったが、確かにカイホ先輩はそう言ったように聞こえた
え?え?え?え?
私の心の声、もしや出てた!?
は、恥ずかし〜!