第一章【逃亡】
どこをどう走ったのかもあまり記憶にないってくらい
無我夢中で走っていた
気付けば、なんとか自分の家の玄関に立ちすくんでいた
この息切れが
今までの非日常が夢では無かった事を
教えてくれている
私はぐったりしたままキッチンへ向かうと、冷蔵庫から麦茶を出した
コップから零れるのも構わずに注ぐと
グイッと飲み干した
「あら、お帰り。」
ベランダからお母さんが顔を出した
「走ってきたの?」
「ん、うんまぁね。」
「なにー?不審者にでも追い掛けられた?」
怪訝な顔で
でも心配そうな声色で
お母さんが顔を覗き込んできた
「ううん、ちょっと!約束忘れててさ、慌てて帰ってきただけ。」
「またゲーム?」
「ん、まぁそんなとこ。」
「ちゃんと宿題も終わらせるのよ?」
無事だと分かると、お母さんは取り込んだ服を畳みにリビングへ引き返した
その姿を見届けて
私はバタバタと2階の自分の部屋へ戻った
本当に意味が分からない事の連続だった
カイホ先輩の発言全てが意味が分からなかった
転生とか言ってたし
私を見つけたとか?
正直、会った初日の女の子にする話ではない
ましてやキスなんて!
「はぁぁぁ…」
深〜い溜息が出た
きっとイケメンカイホ先輩からしたら、女の子とキスしたり口説いたり
ごく当たり前の日常なんだろう
ただこちらは
まだまだ恋愛に免疫がない
しがない高校1年生ですからね
本当に意味が分からなさすぎて
頭がすっかり考える事を放棄してしまっている
今日の事は
もう夢だと思おう
きっともう
カイホ先輩に会うことはないから
次の日
学校へ向かった私は
またまた腰を抜かしそうになった
なんでって
私の下駄箱の前が
燦々と光り輝いていたから