▼3~2階・エレベーター内
▼3~2階・エレベーター内
なんだったんだ、今、目撃してしまったものは?
扉が閉じきる直前、垣間見えた光景。
一瞬だけであるがゆえ、網膜に克明にきざみ込まれた。
ポニーテールの女性看護師と、老婆が会話をしていたのである。
老婆はもちろん5階からエレベーターに乗っていた、あの白髪の老婆だ。エレベーターを出終えたところのようで。「トミ子さん」とほのぼの呼びかけたポニテ看護師が傍らまで駆けつけてきており、いたわるように老婆の体に触れてさえいたのだった。
……いったいどういうことだ?
舜平は操作パネルに飛びついて『開く』ボタンを押した。
だが、閉じきったあとではもう遅い。
エレベーターは2階に向かって降下し始めてしまった。
「ぐふっ……ぐふっ……ぐふふっ……」
ふいに聞こえてきた奇声で振り返る。
ヨシオカ・ナツキが床にうずくまっていた。正座をして、お腹に両腕を回す格好で、額を床にこすりつけさせている。地べたに黒猫のポーチが投げ出され、長い髪の毛が広がっているのもお構いなし。「ぐふっ」と発声するたびに、弓なりになっている背中が小刻みに痙攣している。どうやら、笑っているらしい。
「な、なに笑ってんだよ?」
「ひひっ……ひひひっ……いひひひひっ!」
気色のわるい笑い声がより一層強まる。
さらにはドンドンバンバンと床を両手で連打し出した。
エレベーターが旧式なせいだろうか、天井の照明がチラつく。
狭い直方体の中が暗くなったり明るくなったり。
「やめろって! 笑うな! 床を叩くな!」
「あははははははっ!」
狂ったような声に包まれながら、エレベーターは2階に到達した。