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お見送り大作戦!選ばれなかったのはわたし(物語詩)

さよなら、

という呟きは海風にかき消されどこにも届かない

夕闇は空と海を染めはじめ

わたしはただ見つめることしかできない

海にはいくつもの灯火

それらは円を描くように浮かび

その中心に向かって

船は静かに、着実に進む


そして船は小さくなり

灯火でぼんやりと見えるくらい遠くにあった

ここからでは二人の姿は見えない

やがて円の中心に至るころには、暗闇の時間


あの人が選んだのは、あの人

わたしは選ばれなかった

けれども

選ばれたあの人はともに船に乗る


わたしにはそれができたかどうか?

たとえあの人が罪人でも

わたしが愛したのは同じ

ただそれはこの世でのことにすぎない


夜空に星が浮かび上がる

暗闇はさらに強くなり、

灯火に浮かぶ船は

波にゆられて幻のよう


時間は誰にでも公平に進む

慈悲も容赦もなく

やがてその時が訪れて

魔法によってはじまる


暗闇のなかで灯火以上の明るさで

船は燃え上がる

この世界を壊そうとしたあの人と

あの人が選んだ人とともに

ここからではその熱気も何もかも遠く

ただただ崩れ去るのを見ているだけ…

円を描いた結界のなかでは

誰も逃れることはできない

けれども遠くにあり、

幻のようにはっきり見えなくても

わたしには船からは誰も出てこないのを

心で感じていた

もしもどちらかでも姿をあらわせば

わたしの心は満足したのか?


ふたりはともに船とともに沈み

やがてそれは終わった

でも、わたしは?

わたしの情熱や愛はあの船とともに消え失せたのか

それとも、まだ残されているのか…わからない

魂だけでもあの船とともに沈めることができれば

幸福だったのか?

それを考えるのも億劫

今は何も考えたくない


数多く浮かんでいた灯火は

ひとつ、またひとつと暗闇に溶けていき

あとには夜と海からの呼び声しか残らなかった

でも、幻でもわたしを呼ぶ声は聞こえない


わたしは生きている

たとえ暗闇のなかでも


夜のなかを歩み、わたしは家路についた


2020年4月5日初稿

 物語自体は色々と考えていたけれど、二次創作以外では本当に久しぶりに書いた。

 自分は基本的に物語は先に場面が浮かぶことが多く、それに至るまでを考えたり他のアイディアと組み合わせてひとつの作品にすることが多く、同じアイディアを何度も使うことも珍しくはない(苦笑)

 さて今回だけれども、この物語もふっとしたときに場面が浮かびもともとはいつもと同じようにそれに至るまでを考えていたけれど、ふっとなぜだか何も足さずに最初に浮かんだままを描こうと思った。

 近年の自分のオリジナル作品は色々な影響…童話やハードボイルド文体(特にロス・マクドナルド氏の後期の主人公の透明さ)などからできるかぎり簡潔で、無駄な描写をいれないようにしていてその流れで主人公の名前すら設定せず、「物語」を中心にしているのだけど今回は性別すら設定しなかった。過去には人間不在で物語だけを何とか描こうとしたことがあるけれど、この物語でそれらが効果的に描けたかというと正直自信がない。

 ちなみに今回は詩という形で物語を展開したけれど、当初は普通に小説の形で描こうとして冒頭をちょっとだけ書いていた。


 さよなら、という呟きは海風にかき消されてどこにも届くことはなかった。

 夕闇が空と海を染めはじめるなか、わたしはただその船が進んでいくのを見ていることしかできなかった。

 海のうえにはいくつもの灯火が円を描くように浮かび、船はその中心に向かって静かに、確実に進んでいた。

 どんどんと船は小さくなり、灯火でぼんやりと見えるくらい遠くにあった。

 ここからでは船の姿がやっとわかるくらいで二人の姿は見えなかった。

 やがて円の中心に至るころには、暗闇の時間になっていた。


 あまり変わらないけれども、書いている途中でふとアガサ・クリスティーの「鏡は横にひび割れて」で引用されたアルフレッド・ロード・テニスン氏の「シャロット姫」が浮かび、何となく詩という形がよいのではないかと思い挑戦をしてみたのだけれども、はたして結果はどうなのか正直書き終えたばかりの自分には判断がつかない。

 もしも多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いである。


 余談ついでに当初、この物語は余韻として次の文章が最後にあった。


扉を開けても、誰もいない場所に向かって


ただ自分はひとりでいることが不幸だと思わないことと、この物語にはあわないと思って削除をしたのだけど、余韻として残していた方がよかったのかどうか…

 あまりに長々としたあとがき(言い訳)になってしまったけれど、昔読んだ本で注釈が本文よりも長い詩というのが紹介されていて笑ってしまったことがあるけれど、自分も人のことが言えないなと苦笑いである。

 なお、この物語はSNS、小説家になろう、pixiv、ブログに一部別題名、別名義で同時に掲載をしている。

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