開かずの扉-七不思議番外-
ガラガラガラ。ガチャガチャ。ガチャリ。
片っ端から扉を開ける、小夜子さんと私。
「本日は『開かずの扉』を探したいと思います」
徐々に小夜子さんのとんでも提案にも慣れてきた、と思っていたのだが、今日のバイト内容は今までにない過酷さだった。学校中の扉を全て開ければ「開かない扉」が見つかるだろうというローラー作戦。どうにも範囲が絞り切れないらしく、二人なら二倍の速度で回れるので総当たりしよう、という事だった。
一階はトイレ含めオールクリア、準備室は空いているのを見た事があるので――鍵を借りてくるにも理由付けが出来ないので――対象外。階段を上り、二階、三階、四階、異常なし。
特別教室棟、部活で使用中の教室以外確認、問題なし。図書館司書室、体育館倉庫に入ろうとしたところ、先生に発見され注意を受ける。
「あとは……校庭の用具小屋ですかね。部活動で使用されていないものが校舎裏にあるので、そちらから見てみましょうか」
件の小屋は、崩れてこそいないものの、屋根に乗った落ち葉がそのままで、どうにも使われていない様だった。
ドアノブを捻る。開かない。
「……ドアフレームが歪んでいますね。開かずの扉、ですが……」
小夜子さんは窓から中を覗こうとするが、ガラスが埃だらけでよく見えないと肩を落とす。
「まあ、物理的に開かない扉ですし、七不思議とは関係ないでしょうね。
わたくしが探しているのは、『開けば異界に繋がる』と言われている扉なので」
「そんなヤバそうなもの探してたんですか私達」
「はい。
開かずの扉。いつも開かない扉が開いた時、異界へと引きずり込まれる。
扉があるはずのない場所に現れるとか、何時も開いている扉が突然変化するとか、どうにも場所に関する情報が不明瞭でして。ですがやはり、このような効率の悪いやり方は駄目ですね。何らかの儀式を踏まなければならない可能性もありますし、もっと下調べを行ってから、再度挑戦しましょう」
最初からそうして欲しかった、と思うが口には出さない。出したところで終わった事だ。
「近頃は見切り発車が増えたかもしれません…人手が増えるという事には判断を狂わせるというデメリットもあるようです……」
部室となっている小屋を、人がいないものを狙ってガチャガチャ開けながら、小夜子さんがブツブツ呟く。
「琴平にも『大変はしゃいでいる』と言われましたし、そんなつもりはないのですが、自分のコントロールが出来ていないというのは大問題です…キャラを維持できなければ学校生活に支障が……」
キャラ崩壊なら既に起こっていますよ、私の前だけでなくボロが出始めていますよ。
校内中の確認できるだけの扉を開け終え、本日のバイトは終了。荷物を取りに教室へ向かう。
扉に手をかけた時、何か少し引っかかる感じがした。
が、力を入れたら普通に開き、向こうに広がるのも見慣れた教室。うん、どう考えても気にしすぎだ。
時計は六時丁度、いや、少し過ぎたところ。タイムセールに間に合いそうなので、今日は商店街の近くで降ろしてもらおう。
「小夜子さん、琴平さんが待っていますよ、早く帰りましょう」
「逢魔が時は毎日やって来るのに、何故魔はいつもやって来ないのでしょうねぇ……」
「晩ご飯の事でも考えましょう、今日はジャガイモが特売なんです、小夜子さんはどんなジャガイモ料理が好きですか?」
「特売、とは何でしょうか?」
「え?」
「え?」
その日、小夜子さんは人生で初めてスーパーの扉をくぐり、タイムセールの現場を目撃したのだった。