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華綾付属高校七不思議1

「白塚小夜子1」からの続きとなりますので先にそちらを読んでいただけるとわかりやすいです。

 日中の白塚しらつかさんは、わざわざ私に近付いて「ごきげんよう」と挨拶を交わしたくらいで、いたっていつも通りであった。解説時の妙な早口はなりを潜め、おっとりとしたお嬢様口調で隣席の生徒と会話している。

 一方、私の方はと言うと。

旭日あさひさん、先日白塚さんとご一緒でいらっしゃったでしょう? どんな方でした?」

「ご自宅にお呼ばれされたのでしょう?」

「お二人はお付き合いを始めたのかしら!」

 並んで歩いていただけなのにすっかり尾ひれが付いている。送迎される様子も目撃されていたのだろう。これは言い訳するよりも、ぼかしておいた方が良いか。

 お嬢様、と一口に言っても、その中にはいくつかの分類がある。私と仲の良い生徒のほとんどは一代、二代で伸し上がった歴史の浅い家のご令嬢。社交界を経験している人もいるが、一般よりお上品なだけで会話の内容は同年代で全国的に流行っている様なもの。皆フランクで、この学校の中では私的にとても会話しやすい人達だ。だがそれ故に、俗っぽい噂話が大好きだったりもする。自分が渦中にある場合の対応は中々大変だ。

「旭日さん、朝から大変だね。モテる女はつらいねー」

「何それ……もう、他人事だと思って」

 昼休み。大抵の生徒は食堂に向かうか景色の良い場所でお弁当を広げるが、クラスで唯一私と共に教室に残る子がいる。

 後ろの席の和胡わこさんは、自称ごくごく普通の一般市民の生徒である。同じく一般市民の私に親近感を覚えたのか頻繁に話しかけられ、今ではタメ口で会話するまでになった。ちなみに、この学校には彼女と同じ立場の生徒もいるが、正確には『私立高校の入学金が余裕で払える程度の一般市民』なので私からすると「どこがじゃい!」と突っ込まずにはいられない。

 しかし、彼女のお弁当箱とその中身は落ち着くラインナップなので、息の詰まる様な学校生活におけるオアシスとなっている。

 ニンジンを私の弁当箱に移動しながら、和胡さんは「にっひひー」と笑う。

「知らないのー? みんな旭日さんの彼女になりたーい、って言ってるよ? けれどもけれどもまあ大変! 白塚さんという超絶強力なライバルが出現! っていう状況だからこんなに騒ぎになってるわけよ」

「いや……女同士でそれはないでしょ、しかも私は平民なわけだし」

「万能イケメン女子が何を言うか! 特待生で学年一位で長身で胸が平たくて綺麗な顔して落ち着いてて、カッコ良くないわけがないであろうが!」

「平たいは余計だ!」

「ともかく、自分がイケメンだという自覚を持ちたまえよチミ、モッテモテのくせに『そんな事ありませんよ~』とか言うと非リアに殺されてしまいますぞ」

「女なんだけどなあ……」

 今までの人生、一度も彼氏が出来た事は無い。女子高出身だとモテると聞いたのでここを選んだのだが、思っていたのと違うなあ……。

「普通に金持ちの彼氏が欲しいだけなんだけどなあ」

「いやー、それは無理じゃない? 一人で何でもできちゃいそうな彼女に付いてこれるのは何にもしない男だけでしょ」

「別に万能じゃないんだけど…成績維持で精一杯なのに」

「そういう努力を表に出さないからー……ってわけでもないか。『頑張る姿がカッコ良い応援したい!』とか言われるだけか。うん、そういう星の元に生まれたんだよ。

 てゆーか、普通にあたしから見てもハイスペックだし、お嬢様から見たらもっとそう見えるんじゃない?」

「ピアノとかバイオリンとかプロ並みに弾ける人達に言われるの結構複雑なんだけど……」

 私の場合、様々なバイトをしてきた事で、社会で必要とされるスキルが何でもそれなりにあるというのが正しい。対してこの学校の多くの生徒は、幼い頃から習い事に精を出し、一芸に秀でている。その分野において私は勝つ事が出来ないのだから、そんな人達に憧れられるというのは何とも言えず微妙な気分になるものだ。

 これこそ、隣の芝は青く見える、というやつか。

「でさ、噂の真相は、一体どのようなものなのでしょーか? お泊りしたんですか? お付き合いしてるんですか?」

「どっちもしてません」

「あっはは、だろうねー」

 「いやー噂って怖いねー」と笑いながら、ポテトサラダを口に運ぶ。

「ふぉんでさー、白塚さんってどんな感じの人なの?」

「食べながら喋らない。……うん、まあ……意外とよく話す人、かな?」

 内容に関してはイメージ崩壊が起きる為言わない方がいいだろう。多分、本人は必死でお嬢様の姿を守っているだろうから。

「へーえ、教室だと物静かな感じだけどねー。やっぱり、旭日さんに気があるんじゃない?」

「何でそうなるの……」

「半分じょーだんじょーだん」

 半分かーい、とツッコんで、クラスメイトが戻って来たところでその日の雑談は終わった。



 放課後、白塚さんに呼ばれ、音楽室の前に来ている。

「音楽室には複数の怪談がありまして。独りでに鳴るピアノ、弾いてはいけない呪いの楽譜、聞くと死に至る呪いのカセットテープ、封印されたフルートといったところなのですが、許可を取ってありますので本日は準備室でカセットテープとフルートを探そうと思います」

 鍵を取り出し、音楽準備室の扉を開ける白塚さん。一体先生には何と説明したのだろうか。怪談の為なら手段を問わないのか、それとも先生側に趣味への理解があるのか……。

 吹奏楽部ではないので見慣れないものの、特に室内におかしな点はない。使用頻度の高い物が手前に並び、奥の棚等はたくさんの楽器をどかさないと扉が開けられない状態になっている。

「原状復帰が使用の際の条件ですので、この配置をしっかりと覚えておきましょう」

 ふんすっ、と気合を入れて、室内を凝視する白塚さん。言い出し辛いなぁ、と思いながら、私はそっとスマホを取り出し、パチリパチリと数枚写真に収める。

 気付いた白塚さんが画面を覗き込み、「まぁ、便利ですね」と感嘆の声を漏らした。

「白塚さんはスマホ持たないんですか?」

琴平ことひらが持たせてくれないのです。壊したり無くしたり、ろくでもない事に使いそうだからと」

「そうなんですか……」

 おっちょこちょいなのか、それともオカルト趣味側の心配なのか計りかねる内容だ……。

 原状を保存出来た事を確認し、白塚さんは早速楽器をどかし始める。空いているスペースにどんどん移動していく。私が身動き出来なくなった。

 最後の木琴をずらして、白塚さんが「あ」と声を上げる。

 引き戸を開け、中から古びたラジカセを取り出す。使い方がわからないのか、端から順にボタンを押し始めた。

「し、白塚さん、壊れそうなので止めてください。私、動かし方わかりますから」

「そうなのですか? それでは、中にカセットテープが入っているか、確認をお願いします」

「ちょっと、待っててください」

 周囲の段ボールと鉄琴を、移動する通路を確保できる程度に動かす。何とか白塚さんの元へ辿り着き、ラジカセの蓋を押した。

 中には、クリアピンクのカセットテープが入っていた。白塚さんの顔を見る。言われる前に「鳴らせ」と言うのがわかる表情だった。

 蓋を閉め、再生ボタンを押すと、ノイズの混じった不穏な音が流れ出した。

「……呪いのカセットテープ、でしょうか」

「……それって、どんな内容なんですか? 変な音がするだけ、って事では……」

「聞いていると死にたくなるそうです」

「死ぬ、ではなく死にたくなる、ですか……何か微妙ですね」

「確かに、呪いと言うには微妙な効果ですよね」

 しばらくノイズが鳴っていたが、突然音が止まる。テープが終わった様だが……カセットテープというものは、表と裏、二面ある。

 白塚さんはあまり詳しくないようだから、言わなければ気付かない可能性があるが。

 私はテープを取り出し、反対にして入れて、再生ボタンを押した。

 軽やかなピアノ曲が流れ出す。どこかで聞いた事がある曲だ。

「……シューベルトの『野ばら』……これは、独りでに鳴るピアノの話で出てくる曲ですね。もしかすると、これがからくりのタネかもしれません」

「そちらは、どんな怪談なんですか?」

「四十年程前、この学校の生徒が自殺しました。彼女はピアノを弾くのが大好きでした。彼女の死後、四時四十四分になると、音楽室からピアノの音が聞こえるようになりました。それは彼女が好きだった『野ばら』……幽霊となった生徒が、今でも大好きなピアノを弾いているのです。

 というものなのですが、録音したカセットテープを流せば、いつでも再現出来てしまうわけなので、人為的に作られた怪談である可能性が浮上したわけです」

「なるほど、同じ曲だと、確かにその方が説得力ありますね。自殺云々の話は本当なんですか?」

「はい、裏は取れています。自殺した生徒がいた事は間違いありません」

「怪談よりそっちの方がゾッとしますね……」

「何もなければ怪談自体生まれませんし、そもそも複数の人間が集まる空間で何も起きないはずがありませんからね」

 一瞬、白塚さんは遠い目をした。

「これ以上は推測の域を出ませんし、後で当時の生徒にお話を聞いてみるとして。フルートを探しましょう、あわよくば楽譜も見つかると嬉しいです」

 私は見つからない方が嬉しいんだけどなあ、と内心思いながら、フルートが仕舞われている戸棚に手を掛けた、その時。

「――あれっ、開いてる!」

 ガラガラガラ、と廊下側の扉が開き、女生徒が素っ頓狂な声を上げた。

「旭日さん、と、小夜子さよこさん! こんなところで何やってるの?」

梨音りおんさんこそ、今日は部活動がない日のはずじゃ?」

「忘れ物しちゃって!」

 そう言いながらも焦った様子の無い彼女、クラスメイトの梨音さんは吹奏楽部に所属している。私達よりもよっぽど、ここにいてもおかしくはない人物だ。

「てっきり鍵掛かってると思ってたのに、開いてるんだもんびっくりしちゃったよ」

「それなら職員室で鍵借りてくるのが先じゃないの、今は白塚さんが持ってるけど、その話も聞けただろうし」

「そうなんだよねぇ、開けてから気付いた」

 どことなく抜けている彼女と私は、軽口が叩ける程度に交流がある。しかし白塚さんは、先程から鉄壁の笑みを貼り付け黙りこくっている。

 ……とはいえ、荒らされた準備室の最奥にいるのだ、誤魔化すにも限界があるだろう……。

「そういえば、梨音さん、音楽室の怪談って知ってる? 呪われた楽譜とか、封印されたフルートとか」

「オレンジっぽいボールペン見つけたら教えてね……怪談? 怪談じゃないけど、封印されてるフルートならそこにあるよ?」

「本当ですか!?」

 突然声を上げた白塚さんに驚きつつ、梨音さんはフルートが並ぶ戸棚とは別の引き出しを指差す。

「ケースの鍵がなくなっちゃって、何年も開けられなくて仕舞いっぱなしのやつが『封印されたフルート』って呼ばれてるけど……怖くも何にもないよ?」

 白塚さんが引き出しを開けると、確かにフルート用のケースが出てきた。鍵穴が錆び付いており、押しても引いても開かない事を除けば、何の変哲もないケースだ。

「……では、楽譜の方に心当たりはございませんか?」

 少し落胆した様子でケースを元の場所に仕舞いながら、白塚さんが尋ねる。尋ねながら、コロコロと近場の木琴を移動する。

「うーん……『弾くと指が死ぬ楽譜』ならあるけど、普通のショパンのエチュード集だよ?」

「ああ、成程……」

「ある意味怖いんだけど、指が死ぬってどういう事?」

「んっとね、ショパンって指長かったのね。だから手の小さい人が引くには難しい曲が多くて、楽譜は置いてあるんだけど軽い気持ちで引くと指つるよって先輩に教えられるの。怪我はしなくてもとても聞けたものじゃない演奏にしかならないから、フルートと一緒で封印状態みたいなものかな?」

「へえ……これの何がどうなって怪談になったんだろう……」

「あーでも、怖い話だったらねぇ、あるよ。七不思議の一つなんだって、誰もいないのに聞こえるピアノ! 先輩が聞いたんだって!」

「ありましたよ、ボールペン」

「あっほんと!? ほんとだー! ありがとう小夜子さん!」

「いえ、もののついでですから」

 ボールペンを受け取ると、白塚さんの手を握り締めぶんぶんと勢いよく握手し、「ありがとうねー!」と叫びながら、梨音さんは手を振ってスキップで去って行った。

「………賑やかな方ですね」

「あはは…根はいい子ですよ」

 白塚さんはしばらく呆然としていたが、「片付けて撤退しましょう」と木琴を動かす作業に戻る。私もスマホを取り出して、手伝いに入った。


 鍵を返しに職員室へ向かう途中、廊下で音楽担任の鈴谷すずや先生と鉢合わせた。

 このまま渡して帰れるな、と思っていたのだが、「先生、少しお時間よろしいですか?」と白塚さんが声を掛け、そのまま音楽準備室へ舞い戻る事となった。

 準備室の扉を閉める際、白塚さんは周囲に人がいないか確かめる様な素振りを見せた。扉と共に小窓のカーテンも閉め、鈴谷先生の方へ向き直る。

「先生にお尋ねしたい事があります。

 この学校の七不思議の一つと言われる、音楽室の独りでに『野ばら』を演奏するピアノ。


 この怪談、先生がお作りになられたのですよね?」


「え……?」

「………」

 突然何を言い出すのかと思えば……そういえば、先程「当時の生徒に話を聞く」と言っていたが、鈴谷先生はこの学校の卒業生で、歳は五十代。……自殺者が出た当時の在校生である可能性は、非常に高い。

 しかし、作った、とは。

「動機はわかりかねますが、この怪談、今でも時折確認されるようですね。おそらく、そちらのラジカセでテープを再生しているのだと思いますが、こっそりと準備室に入り備品を使う事が出来る人間は限られます。幽霊ではなく人間がやっているとしたら、真っ先に候補に挙がるのが先生です。

 これはあくまでも、わたくしの個人的な興味。誰に言いふらす訳でもありません。なんなら、何も聞かなかった、かもしれません」

 何を言っているんだろう、この人は……。既視感があると思ったら、あれだ、探偵が犯人を問い詰めるあの感じだ。

 当てが外れていても、本当に犯人だとしても、先生が「はい」と言う必要はないはずだが。しばらく黙って見ていると、先生は視線をラジカセの方へ向け、小さくため息を吐いた。

「……そうですね。これは私の独り言です」

 探偵物の読みすぎではないか、とツッコみたくなったが、何とか飲み込む。


「四十一年前、ある生徒が、イジメを苦に自殺しました……。彼女はピアノを弾くのが大好きで、中でもシューベルトの『野ばら』を十八番にしていました。放課後、よく二人で連弾をして遊んでいたものです。ですが私は、自分の身可愛さに、友人である彼女を助ける事が出来ませんでした。

 彼女が亡くなった後も、イジメっ子達が怖く、表立って声を上げる事が出来ませんでした。そこで思い立ったのが、彼女の幽霊を作る事。彼女は貴方達を恨んで、いつまでもここにいるのだと、そうしてイジメっ子達を責めようとしたのです。

 こっそりと作った合鍵を使い、毎日同じ時間にカセットテープを流し、噂好きな生徒の口を使って彼女の怪談を学校中に広めました。やがてクラス内での居心地が悪くなったのか、イジメっ子達は次々に転校していきました。そこで、この怪談の存在意義は無くなるはずでした……。

 音楽教師としてこの学校に戻り、未だにピアノの怪談が語り継がれている事を知りました。そして思ったのです。


 この物語が語り継がれる間、彼女は生き続けているのだと。


 自分が、彼女と、彼女への罪を忘れないように。彼女の存在が世界から忘れ去られてしまわないように。今でも時々、決まった時間にテープを流すのです。

 ……これで、怪談話は、お終い」


「……大変興味深いお話でした。が、わたくしも黒檀こくたん様も、反対の耳から全て通り抜けてしまったようで。内容がとんと思い出せません、ねえ?」

「え、あ、はい」

「そうですか。日が暮れてまいりました、用事が済みましたら、速やかに帰宅なさってくださいね」

「はい、準備室の鍵、お貸しいただきありがとう存じます」

 スカートを摘み上げ、「失礼いたします」と礼をして、白塚さんが扉を開ける。私も慌てて同じようにし、彼女の後を追った。

「結局、怖い話は一つもありませんでしたね」

「そうでしたか? わたくしは中々恐ろしいものだと思いましたが。

 何故、先生があれ程つらつらと真相をお話してくれたのか、わかりますか? 人間というものは、一人で抱えられる罪の大きさには限度があるのです。秘密を墓場まで持っていくなんて、余程…悪い言い方にはなってしまいますが、イカレた人間でなければ出来ません。

 先程わたくし達は、良心の呵責に耐えかねた先生の罪の意識を押し付けられ、『共犯者』にされたのですよ。人のエゴは怖いですねえ」

「罪、ですか……? 先程の話で先生は、別に大した事をした訳では」

「友人を見殺しにし、イジメっ子達を転校させ、今でも学校中に嘘をばら撒いている。これが罪ではないと? 本人はそうは思っていないから、先程の尋問が成功したのですよ。

 罪の大きさは、人によって違います。法律上は小さな犯罪でも、人が死にかねない程の『意識』になる事もある。

 ……心霊現象の多くは、人が作り出しています。善意、悪意、ほんの悪戯心、どれかはわかりませんが、あまねく人がいるから霊がいるのです。

 黒檀様、このアルバイトを続ける限り、貴方はこれからも人の悪意に触れる事となります。……辞めるなら、今のうちですよ?」

 ほんの少し、最後に声が震えた。気丈に、自分勝手に振舞っている様に見えて、案外この人は他人の感情に揺さぶられやすいのかもしれない。

 少し足を早める。白塚さんの隣に並んで、とぼけた振りをして言う。

「私は、悪意なんて感じませんでしたけどね。ところで白塚さん、さっきの話は耳から耳に抜けていったんじゃありませんでしたっけ?」

「……ふふっ、そうでしたね。わたくしとした事が、忘れた事を忘れていました」

琴平ことひらさんが待っていますよ、早く行きましょう」

「はい。本日もお付き合いいただきありがとう存じます。ご自宅までお送りいたしますので、ご一緒してくださいな」

「あっ、送迎は…あー、はい、お言葉に甘えさせて頂きます」

 また誰かに見られたら変な噂になるな、と思ったが、薄闇の外を見て諦めた。タイムセールのスーパーは、学校より自宅からの方が近い、頑張れば間に合う。

「そういえば、白塚さん。その、様、っていうの、止めません? どうも慣れなくて……」

「あら、でしたら、何とお呼びすればよろしいかしら?」

「さん付けで…何なら、皆さんと同じように『旭日さん』呼びでも構わないんですが」

「わかりました、善処します。……黒檀さん」

 こっちも小夜子さんって呼ばなきゃいけないな、とか考えていたが、その日はまだ遠いらしい。

 ……いや? 梨音さんみたいに何食わぬ顔して「小夜子さん」と呼んでしまえばいいのでは?

 人との距離の詰め方は、やはり難しい。

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