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宙と幼女と隕石と!

作者: にとろ

 ある日、日本のある県のある町に一つの隕石が落ちた。そんなことから始まる少年と少女の物語。


 ズゴン……


 宇宙を漂っていた隕石はまさに天文学的な確率を引き当て地球に降ってきた。


 それ自体は珍しいことではない、いつも地球には隕石が落ちてきて大気との断熱圧縮によって光を出しながら燃え尽きている、所謂ところの流れ星だ。


 ところがこれは地表まで燃え尽きることなく到達した、まだここまではあり得ることだ。恐竜が絶滅した原因になったと言われているように、ロシアで規則的に木々をなぎ倒したように、隕石が落ちてくることは珍しくはない。


「んしょ……」


 その隕石は轟音をたてるでもなく、クレーターの一つも作らず、ごくごく静かに落ちてきた。そして『ソレ』は日本を観察し始めた、観察対象は最終的に世界規模に広がったらしいがとにもかくにも自身の周囲にある身近な国である日本から観察を始めていった。


「これで……いい?」


 固体だった隕石は特異点を超えると突然流体になり、自身の姿を変えていった。


 そうしてようやく再び固体になったころ、自身を有機生命体として作り変えていた。そしてその姿はこの国で庇護の対象となっている「幼女」の姿をしていた。


 私には記憶が無い。気が付いたときから少女、いや、幼女の姿をしていたし、私ははじめただ単に記憶が曖昧なのだと思っていた。


 周囲を観察するとどうやら「お母さん」と「お父さん」という関係性を持つものが大抵の人には存在し、それらに保護され養育されながら成長をしていくものらしい。


 しかし私には誰も居なかった、父親も母親も居ないのにお前はどうやって生まれたんだと言われそうだが、私にはそれが皆目見当もつかなかった。


 そうして私は人気の無い神社でこっそりと暮らしていた、幸いなことに等にうち捨てられた場所らしく、人が訪れることも無かったので私が通報されることも無かった。


 そうしてまたしばらくして、未だに私は幼女だった。その頃から自身の存在について疑問を持ち始めることになった。どうやら人間というのは成長をするらしい、周囲で数回遊んだことのある子供がしばらく寝てから起きてみると明らかに同一固体なのに容姿は著しく変わっていた。


 しかし結局のところ私には「成長」がなんなのかを理解することはできなかった。公園の砂場で遊ぶ相手は変わっていったが、相変わらず私は幼女を続けていた。


 ある日のことだ、神社の隅にある石ころから何かが聞こえてきた。私には理解できない声だった――そもそも声かどうかも怪しかった――し、この石はなんだか私を酷く嫌な気分にさせた、まるで何かをせかすような音だったからだ。


 そして数日後に私はあることに気が付いた、道行く人が何かを口に入れていた。それがなんなのかは分からなかったが、少なくともみているあいだに口に入った物が再び出てくることは無かったので私はそれを吸収と判断した。しばらく経って後に、それは「食事」と呼ばれる行為なのだと理解した。


 私はどうやら見ている人によって姿が一定では無いことにも気が付いた。「幼女」がいつまでも姿を変えることが無く同じ公園で遊び続けていれば不審に思う人も居るのだろう。しかし私は観察されるたびに観測者からは違う姿に見えていて、以前遊んでいて、現在は学校に通っている彼女たちがみた私と、今現在、公園で遊んでいる「ともだち」とでは違うものに見えるようだ。


 それが不便だと思ったことも無かったし、むしろ便利だとも思っていた。


 そうしてようやく私は人間では無いことに気が付いた。人間というものは食事をするものだと知ってから、それを吸収してエネルギーにしているのだろうと考えていたが、どうやら摂取した物質全てをエネルギーに変換できるほど効率的な組織はもっておらず、排泄という行為を行い、吸収し損ねたものを体外に排出しているのだと知り、その役目を公園の隅に置いてある直方体の箱の中で行っていることを知った。


 私はそんな非効率なことは無く、わずかな原子を消費することで長期の行動が可能だったし、効率的な使い方をすれば私が地球を消費し尽くすよりも早く、空に浮かぶ太陽が核融合を停止するであろうことも理解した。私は太陽よりも効率的なエネルギー摂取をしているらしい。


 そうしてまたしばらく経ったころ、言葉と文字という非効率極まりないコミュニケーション手段を覚えることにした。公園の入り口にあるものは――前衛的な――オブジェだと思っていたし、子供達が声を発するのはそれがまだ成長していないからだろうと思っていた。


 だから私はいつもテレパスで子供と意思の疎通を行い、彼ら彼女らもいずれそうやって大人とコミュニケーションをとるのだと考えていた。


 しかし言葉は大人から子供へ、子供から大人へだけではなく、大人同士でも使っていることに気が付いた。初めて気が付いたときはたまたま趣味で非効率的なコミュニケーションを行っているのだと思ったが、どうやらそれはここでは極めて一般的なコミュニケーションの手段であることを理解した。


 それから少し、公園に顔を出すのをやめ、声を出し、字を書くことを覚えるのに腐心した。この酷く面倒な意思疎通には散々苦労させられたが、ようやくのことで私は文字と言葉によるコミュニケーションが可能となった。


 そして私の世界は大きく変わってしまった。


 公園まで歩くだけでも大量の文字が目に入ってくる、オブジェだと思えば気にならなかったのに、これら一つ一つ全てに意味があることだと思うと理解することは早々に諦めた。


 そして公園でも私は子供達と言葉で意思疎通を行った。極めて初歩的な言葉しか覚えていない私だったが、皆それほど多くの言葉を知っているわけでもないらしく、皆とお互いの意思を交換した。


 そうして分かったことだが、どうやら人間は世代を交代するらしい。皆が身体を次第に変えてゆき、自身の遺伝情報を持った別固体を生み出し、そして役目を終えて死ぬ。どうやらこれが一般的な人間であることを理解した。


 そうしてしばらく忘れていたあの神社の隅の石からなる不快な音も「声」であることを理解した。


 私はその石に近寄り耳を寄せてみる、ささやくような空気の振動が耳を伝わって響く。


『聞こえているか? 現地の言語でこの装置は作動をするように作られている、もしこれを聞いている者が住んでいる環境が生存可能な場合、速やかに母星に連絡を行うこと。位置が特定でき次第船団を送り入植を行う。我々には残された時間が少なくなりつつあるため早急の連絡を行うことを求める』


 どうやらそういうことらしい。私はその石を手のひらからわずかな原子から作り出した熱エネルギーで灰に変えた。


 入植だの時間が少ないだのと言ったことはどうでもよかった。私は当分のところこの星の不自由なコミュニケーションと旧世代の生物たちを理解する方がよほど重要だ。


 灰をさらさらと地面に巻きながら私は考えた。

「今度は『成長』をしてみようかなあ」

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