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「今日は例外中の例外だから」


 さっきから、この言葉を何度聞かされただろうか。


 同じことを何度も言うのは、正面に立っている作業服を着た保線員のおじさん、いやおじいさんに近いだろう。白髪であることもそうだが、全体に髪が薄くなっていて、顔の皺も多いからだ。熟練の人だとは聞いていたが、もしかしたら再雇用されている方なのかも知れないと思った。


「終電の後で、今日は基本的には回送もないけど、万一車両が走ってくることだってあるから。ちゃんと指示にしたがってよ」


 保線員のおじいさんは、ピッピと短く笛を吹いた。


「気づくまでくりかえすから」


 さっき聞いた話では、これは今回のために簡易的に決めたルールのようだった。


「はい」


 ここは最終電車が通過した後の夜中の地下鉄大手町の駅だった。地下鉄の大手町駅と言っても路線は複数ある。大手町の駅の中では一番深いところにある、半蔵門線の大手町駅にいた。


 俺はある理由でここに来た。


 それはひと月前までさかのぼる。


 俺は作家志望で、今はちょっとしたネタサイトのライターをやっていた。


『ピリリリリリ!』


 それは個別に着信音を設定している中の一人だった。応答するなり、一方的に話し出してきた。


『おい。そろそろ新しいネタ上げろよ』


 サイトの主催者が、俺にじきじきに電話をかけてきたのだ。


『お前、小説サイトにちょろちょろ投稿してるらしいけど、そっちは金になんねぇんじゃねぇの』


 そのサイトの主催者に、俺は頭が上がらなかった。


 ネタを探して記事にするにあたり、ネタの取材費と称する前金をもらう。


 取材し、ネタを記事に書き上げる。アップした記事の閲覧数の一週間のアクセス数に応じて、今度は記事に対する対価が決まる。


 最初の一週間でどれだけアクセスがあるか、つまりどれだけタイムリーな記事、興味を引くような記事を書くかがポイントになる。


 ネタは自分で探すのが基本だが、実は俺はこの主催者から『ネタ』の提供を受けて、書くだけのことをやったのだ。正直、記事の出来より、何をネタにしたかがアクセス数を左右する。肝心のネタ部分をサイト主催からもらって、アクセス数が多い記事を書いた俺は、他のライターから妬まれた。だが、もうサイト主催者から優遇された時期も終わっていた。


『取材用の金は渡してるんだから、さっさと書けよ。じゃなきゃ、取材用の前金返してもらうからな』


 そこで電話が切れた。


 以前受けとった取材用の金は、生活費の足しにして、無くなっている。俺は焦った。


 この時、俺はちょうどストックしていたネタが尽きていて、短文SNSを巡回してネタを探していた。主催からの電話で、もう一度、『つぶやく』タイプの短文SNSを探していると、一つ、面白そうなネタを見つけた。それが地下鉄に関連した『つぶやき』だった。


 その内容は、


『地下鉄で怪獣の声のようなものが聞こえる』


 というものだった。


 頻繁に目にする、という類のものではなかったが、見かけた『つぶやき』一つ一つが、実際にあったかのように妙にリアルっぽいのだ。俺にとって、そこが興味を惹かれるポイントだった。


 地下鉄に関するものだと過去には『国会議事堂前駅の周辺に謎の地下空間があり、国会議員のシェルターとして使うらしい』という噂は目にしたことがあった。ただ、そんなあるかないかという空間に『怪獣』がいるなどという噂は、今回、初めて聞いた。俺はとりあえずその『地下鉄と怪獣ネタ』を追ってみることにした。


 次に関連して見つかったネタとしては、『噂を検証してみる』といった動画をアップするユーチューバーのネタだった。この地下鉄で怪獣の声が聞こえるという噂をいくつかのパターンに分類して、検証していたので、これも俺の興味を引いた。


 パターンその一。カーブを曲がるときの車輪のフランジとレールがぶつかりこすれる音ではないかという検証。特に急なカーブを曲がるところを中心に音を集めてみて『それっぽい』音がするかを動画のメンバーで聞きながら判定していた。


 パターンその二は、地下鉄の音響効果によって遠くの車両の音が、怪獣の声のように聞こえるという説。いくつかの駅で車両通過後の音を収集して、怪獣の声のように聞こえるかを同じメンバーで判定していた。これは結局のところその一と同じ音がトンネルの形状や状況により変化したものなので、あまり『パターンその一』と変わらない結果だった。


 パターンその三。これが俺の興味を引いたのだが、地下鉄駅構内で、怪獣の鳴き声を出すと、反応があるというものだった。SNSで噂の多い駅に向かい、そのユーチューバーが小さなスピーカーを使って地下鉄トンネルへ向かって音を出す。そしてしばらくするとトンネル側から駅のほうへ同じような怪獣の声が返ってくるというものだ。はじめは半信半疑、遊び半部だったユーチューバーが、大手町で検証を始めた途端、急に表情を変えたのも印象的だった。そのユーチューバーの検証は、


『超怖え……』


 という結論で終わっていて、本当にそのトンネルの奥に怪獣がいるのかまでは確かめていない。確かに、線路に降りることはできないから、電車に乗った状態や、ホームでできる検証はそこまでだろう。俺はこの『音を出して音で返ってくるという噂』を、さらに検証したくなっていた。つまり、これなら記事が書けるだろう、金になるだろう、という気になっていたのだ。


 俺は、鉄道会社にいる知り合いを頼って、保線員と一緒に線路を歩かせてもらう事を考えた。何事もなくても、地下鉄の内部の写真などである程度のインパクトは出せるのではないか、と予想した。本当に怪獣がいた場合は、生きて帰れないかもしれないが、万一怪獣の写真を撮って帰ればバズるどころではない。一冊本が書けるだろう。色々と掛け合い、ようやく保線作業の取材という名目で取材がOKとなり、今日に至ったのだ。


 そのユーチューバーで怪獣の声が返ってきたと思われるのは神保町と大手町の間。大手町側からトンネルに向かい怪獣の声を出した時だった。だから俺は大手町側から神保町へ向かう線を取材対象とした。


 しかし、鉄道会社側に『怪獣うんぬん』という話はしていない。『異音』がするからその音の正体を見つけたい、保線の作業を見学したい、という二点を取材のポイントとして伝えていた。


「そんな異音がするなら、点検の時に見つかりそうだし、もっとたくさんのお客様から話がありそうだがなぁ」


 おじいさん保線員は、またそう言った。この言葉も、もう何度も聞いた。


「ですから、何もないことを確認するんですよね。先ほどもそうおっしゃっていたじゃないですか」


「その通りだ。我々保線員は何事もないことを確実に確かめることが仕事だ」


 このセリフも何度も聞いた。これを話しているときに、おじいさんが誇らしげな表情になり、気分がよさそうに振る舞うので、俺がおじいさんをノセるために繰り返し言っているせいでもある。


「写真撮る前には一言声かけてね。あと、私が指示したら」


 今度は、ピーと長めに笛を吹く。笛を止める前に俺は口を開く。


「近くの通路上がって避けるんでしたよね」


「その通り。これだけ忘れないで。これは線路に電車が来ている合図だから」


 それ以外にも線路内に警報を鳴らす装置があり、それを操作した時の音も聞かされた。とにかくさっきの笛か、警報灯が回転するか、どちらかがあったら緊急事態だ。地下鉄は線路とトンネルがギリギリに作られていて、一方側にある通路以外は、電車が来たらまず避けられない。通路側に上がらないなら、所々にある避難所に入らないと、車両にぶつかってしまう。つまり、笛や警報灯が回転した場合はそういう避難が最優先される。これは命を守るためのルールだから、くどいとは思っているが、しかたない。


「さあ、そろそろいいかな」


 保線員のおじいさんが時計をちらりと見て、ヘルメットをかぶり、あごひもを締めて整える。ヘルメットにはライトが付いている。俺も同じヘルメットを渡され、頭にかぶった。


「ちょっとまって佐々木さん」


 俺の後ろから保線員のおじいさんを呼び止める声がした。


 佐々木さんと呼ばれたおじいさんは、振り返って言う。


「どうした恵比寿」


「私も連れて行ってください」


「別に構わんが、何かあるのか?」


 恵比寿と呼ばれた保線員は、俺よりは年齢が上なようだが、佐々木のおじいさんよりはずっと若かった。佐々木のおじいさんと同じ保線員の作業着を着て、ヘルメットをかぶっている。俺より背も高いし、鍛えているのか体もごつい。その恵比寿さんは、俺をちらりと見て言った。


「確か、異音がするっていうことでの取材なんですよね。一応、勝手な憶測で変な記事かかれては困るので、一緒に見てこいって」


「何事もないことを確認するのみだ。そんなに簡単に異音や異常が見つかってたまるか」


 恵比寿さんが苦笑いをみせる。


「私だってそう思ってますよ。検査車両で見つからないのですから、何もあるわけないんです」


 二人の保線員から悪者をみるような目で見られ、俺も苦笑いするしかなかった。


「あくまで噂です。噂の検証」


「……異音ってどんな音がするっていうんですか」


 せっかくここに来るまで『怪獣の声がする』という幼稚な内容を伏せてきた。だから俺は、ここで音を聞かせたくはなかったが、どのみち線路に降りたら実験するので、いずれは聞かれてしまう。しかたなくスマフォを操作して音を出す用意をした。ただ画面を見られると困るので、二人から見えないようにスマフォを構えた。なぜなら、スマフォの画面には『ウルトラマン怪獣音声』という特撮ヒーローの名前が書かれているからだった。これはわざわざユーチューバーが試したものを同じものを探してきて用意したものだった。


「いいですか?」


 二人がうなずくので、俺は再生して『パッ』という感じにすぐ止めた。長く聞いたら『怪獣』だとばれてしまう。


「なんだ? その音」


「『キシャーァ』って何か動物の叫び声のようにも聞こえますね」


 まずい、そこまで聞こえてしまったか。もうすこし音量を絞るべきだった。俺は後悔した。


 佐々木のおじいさんは、高い音の為か、よく聞き取れなかった様子だったが、一方で、恵比寿さんの方は現役バリバリの保線員なので音もしっかり聞き取れたらしい。


「まあいい。帰るのが遅くなってもこまるだろうから、さっさと線路に降りるぞ」


 佐々木さんはそれ以上音に対して突っ込みを入れる気はないようだった。


 急遽三人となった俺たちは、ホームから降りて線路脇をすすみ始めた。


 初めて見る角度からの地下鉄の線路は、電車に乗っているときに見ているものとは違って、新鮮に感じられた。


 電車に乗っている時には気づかなかったが、地下鉄のトンネルは人の背丈から考えると大きく、意外に暗かった。


 線路沿いを『神保町』駅の方向に向かって歩き出すと、すぐに下り坂になっていた。地下鉄は、駅を出るときの加速を補助し、駅に着くときのブレーキを補助するために、このような勾配を設けることがあるそうだ。


「ここ、下り坂になっているでしょう?」


 恵比寿さんが話始めた。


「なんで下り坂になっているか知ってます?」


 俺はさっき思い出した知識を言っていいのか、悩んだあと、わざと外したような答えを言うことにした。


「このまままっすぐ行くと、皇居のお堀にあたりますよね。お堀の下は水が出るから、幾分深めに掘ることにしたんじゃないですか?」


「おお、結構地理は調べたんだね。確かにこのまままっすぐ行くと皇居の下をくぐってしまう。だから、ちょっと先で右にカーブしているんだ。ちょっとは影響があるかもしれないけど、理由はお堀じゃないんだよ。地下鉄はエコに運転できるように、駅から出ると下って、駅が近づくと上るように勾配をわざと切ることがあるんだ」


 いや、それは俺がネットで調べたのと同じ知識だ。そうは思ったのだが、わざとらしく感心した風に答える。


「ああ、そうか、逆からくれば駅が近くなると上りになりますね。そうか。加速の時は電気を消費しますからね」


「地上の路線でこれをやろうとすると、わざわざ駅を高くする必要があるけど、地下鉄だから自由自在なのさ」


「トンネル掘る距離はかかるから、工費と比較してどっちが得になるかはわかりませんけど」


 佐々木のおじさんが、立ち止まって俺の方を振り返った。


「この上のあたりに何があるか知ってるか?」


「えっ? さっき言った通り皇居のお堀あたりでは?」


 俺はさっき考えた通り、大手町から皇居の方向に向かっていることを知っていた。


 佐々木のおじいさんが、しわくちゃな顔で嬉しそうに笑って見せた。


「まだそんなに歩いているかね。お堀の前になにかある?」


 スマフォを開いて地図を見ればわかることだったが、それをする雰囲気ではない。


 恵比寿さんは線路のレールを時折、トンカチのようなもので叩いて何かを確かめていた。


「わかりません」


 俺がそういうと、さらに楽しそうに笑った。


「そうか、まだ先だが…… そうだな。あのあたりの上かな」


 佐々木さんが懐中電灯で照らした先をクルっと回して位置を示した。


 下がりきったあたりだった。


「将門塚だよ」


「まさかどづか?」


 まさかど? 俺は考えた。平将門(たいらのまさかど)のことだろう。こんなところで有名な(いくさ)があっただろうか。


「ピンときてないようだな。お兄さん映画の『帝都物語』は見たかな? あるは原作でもいい」


「いいえ」


 歩きながら佐々木さんは楽しそうに話す。


「荒俣宏の原作でな、東京を壊滅させようとする加藤と東京を守る人々の戦いを描いた物語だ。そこで『平将門』が出てくる。加藤は平将門の怨霊を使って、東京の破壊をもくろむんだ」


「その平将門の塚? お墓ですか?」


 すぐ答えず、一拍溜めて言う。


「……首塚だよ。首が降ってきたということさ」


「えっ?」


「まあ、それは眉唾な気もしないではないが、そもそもこの地方の豪族の古墳があったところらしくてな」


 将門の首があったらあったで恐ろしいが、そう考えて祀っているからには、それなりの不幸な出来事がこのあたりで起こったということだ。まして、古墳であったというなら、本来地下鉄を掘ってはいけないような場所なのではないか。俺は少し怖くなった。


 俺が黙ってしまうと、レールをじっと見ている恵比寿さんが言った。


「いや、まあ、そんなに真下って訳でもないから」


「いやいや、そんなに離れているわけでもないぞ」


「佐々木さん。そういうオカルト的なものも含めて、変な記事にされたら困るから、私が呼ばれたんですけど」


 恵比寿さんが俺のほうをチラっと見た。


「そそうか。これは記事にしないでくれ」


 佐々木さんは前を向き、ペースを上げて歩きだした。


 なれないトンネルの中を歩き続けて、俺は少し疲れてきた。


 佐々木のおじいさんから距離が離れてしまったが、時々、恵比寿さんが振り返って俺のことを確認してくれていた。


 何分か歩いたところで、俺は大きく肩で息をするようになっていた。見かねた恵比寿さんが声をかけてくれた。


「疲れましたか? 少し休憩しましょうか?」


 そういうと、先頭の佐々木のおじいさんが振り返った。


「記者の人、もう疲れたかね」


 三人の中で一番若いはずの俺が、一番先に疲れてしまったのはおそらく『慣れ』の問題と『緊張』が関係していると思われた。


 通路側は壁が迫っていて、意外と真っすぐ歩くのが難しい。線路の上は色んなものが気になって、平らな道を歩くのとはわけが違った。


「すみません、すこし休憩させてください」


 恵比寿さんは、持ってきていた鞄から水筒を出して何か飲んでいた。


 ようやく二人のいる場所につくと、俺もペットボトルを取り出して水分を補給した。


「はぁーー」


 ペットボトルを離すと、俺は思わず、大きなため息をついていた。


「?」


 恵比寿さんがトンネルの先の方をチラっと見た。


「……」


 俺は自分でしたため息の音に何かが重なって聞こえたような気がしていた。思わず恵比寿さんにたずねる。


「何かありましたか?」


「なんか聞こえたような」


 佐々木のおじいさんは、レールを見つめていて、俺たちの話を聞いていないようだった。


「私もそんな気がします」


 恵比寿さんは先の闇を指さし、


「こっちから、さっきの『怪獣の声』みたいなのが」


「えっ?」


 まさか、こんなに早く噂が検証できるのだろうか。


 俺はスマフォをポケットから取り出した。


「こんなでしたか?」


 再生させる。すると、トンネル内に音が響き渡った。


「キシャァアア!」


 この場で再生するとトンネルでエコーがかかって、やたらリアルだった。いや、リアルな怪獣など見たことないのだが、本当に生物としての怪獣が鳴いたように思えたのだ。


 何故か分からないが、体が震えた。


 恵比寿さんがその音を聞いて言った。


「うん。なんかそんな音。とても遠くから聞こえたように思うけど」


「いるってことですか?」


「おいおい、そんなこと記事にしないでくれよ。似たような音が聞こえただけだ。その音の真偽を確認するのはこれからだから」


「はい」


 佐々木のおじいさんが、腰に手を当てて体をそらせる運動を数回繰り返してから、言った。


「さあ、先にすすもうか」


 再び通路を進み始めると、佐々木のおじいさんが勝手に話し始めた。


「地下鉄は地上からは見えないから、いろんな噂がたつもんなんだ。国会議事堂の周辺に地下空間があって、核シェルターになっているとか、避難場所になっているとか」


「私も聞いたことありますよ。天皇が使うための駅があるとか」


「はっ? こんな地下まで天皇が潜るものか」


 佐々木さんは自分から噂話を切り出したにもかかわらず、恵比寿さんの言う事は否定した。


「しかしこの先のカーブを直進すれば皇居の真下に」


「……」


 地下鉄のネタを持っていない俺は、二人の話を黙って聞くしかなかった。


「地下鉄にはお召列車、というような特別な車両は存在せんぞ。もしこの線路が伸びて、皇居のしたに進んでいるとして、車両がなかろう」


「この先のホームに車両ごとおいてあるという噂です。そもそも陛下が核攻撃を逃れるための車両らしいですから」


 今では国家予算はいろいろとテレビや新聞で取沙汰されているから、勝手に巨額の費用を使おうものなら、叩かれてしまうが、この半蔵門線が計画されたころはこの国の高度成長期だ。費用をとやかく言う国民もマスコミもなかっただろう。


「天皇専用のホーム…… お前の言っているのは、あの噂か」


 佐々木のおじいさんが意味ありげにつぶやき、黙ってしまった。


 次の言葉を待つように恵比寿さんも黙っているので、俺も口を閉じてもくもくと歩き続ける。


「あるかもな」


『えっ?』


 恵比寿さんと俺の声がシンクロしてしまった。


 恵比寿さんが聞き直す。


「今、なんて」


「あるかもしれない。そこから音が聞こえるのかも」


「佐々木さん。勝手にそういう作り話をしないでくださいよ。この人が記事にしたらまずいでしょ」


 佐々木のおじいさんは立ち止まって、振り返った。


「記事になんかできないよ」


「どういうことですか」


 佐々木のおじいさんが、またも意味ありげに間を取り、黙り込んでしまう。


「だから、どういうことですか?」


 恵比寿さんが聞き返す。


 その時、佐々木のおじいさんが、自分の足元を見るように、頭だけガクンと下を向いた。


 まさか…… 俺は考えた。この佐々木のおじいさんがここで俺を殺すから『記事には出来ない』という意味だったら? 壁に手をつきながら、後ずさった。


 佐々木のおじいさんは正面を向き、口を開く。


「宮内庁の話をしてやろう」


「はあ」


 恵比寿さんが気の抜けたような返事をした。


 俺は聞こえないように、ゆっくりとため息をついた。


「宮内庁には天皇、天皇家に関する噂やネットの書き込みなどを調べる部署があるという噂だ。ひどい書き込みをすればどうなるか」


「どうなるんです」


「恵比寿。お前、大手町と神保町のこの区間で行方不明になった保線員のこと知ってるか?」


 小さい声で「いいえ」と言いながら、恵比寿さんは首を横に振った。


「知らないのか。じゃあ、噂だけが伝わったのかな。この話は『昭和』から始まる。この区間で作業をしているときに、こんな風に作業員同士で無駄話をしているときだった。やはりこの先のカーブのあたりで、その行方不明になった保線員が、天皇に関係する噂話を始めたのさ」


 脅かそうとしている風はなく、淡々と思い出を語るような口調だった。


「その保線員の話した天皇の噂は、こうだった。大正天皇の遺体は多摩御陵ではなくこの先にあるという謎の駅に『ミイラ化』した状態で安置しているというものだった。まあ、天皇は多摩御陵に『土葬』しているというのだから『ミイラ化』しているのも不思議はないことだった。ただ、この路線をまっすぐ進んだ先に天皇の為の駅があり、その駅舎の中に棺があって、さらにその中に『大正天皇のミイラ』があるなんて、話をつづけたもんだから、全員がクスクス笑い始めた。トンでもなくばかげた話ってな」


「まぁ、そうなんですかね」


 恵比寿さんは半信半疑といった感じに相槌をうつ。それとも自身が言い始めた『天皇の駅』の話をまるで自分の話のように話始めた佐々木さんが気に食わないのだろうか。


「皆で笑って、そんな話、怪談の『か』の字まで達してないってバカにしたんだ。まあその保線員曰くだって『怪談』じゃない。実話だから、というんだ」


「はあ」


 やっぱり気の抜けたような恵比寿さんの返事。


「少し先を急ごうか」


 佐々木のおじいさんは、前を向いて歩き始めた。


「この話は続きがある。今度は数年後、平成になってからの話だ。昭和天皇が崩御され、大喪の礼が行われた後の話だ。その行方不明になった男は、またこのあたりの保線作業で噂話を始めた」


「……」


「想像がつくと思うが、今度は昭和天皇がこの地下に運ばれたという話だった。武蔵御陵に入っているはずの遺体が、だ」


 また変な間を作る。


 三人が歩いていくと、下りの傾斜が終わって線路がカーブを描き始めた。


 そろそろこの上が皇居のお堀あたりだ。


「佐々木さん、この()はなんなんです?」


「その場にいた保線員はほとんどが、その昭和の時の話を覚えていたやつばかりだった。皆が失笑するなか、若い保線員がその話に対して『その話、聞いたことがあります』といったんだ」


「……」


 佐々木のおじいさんは、左側の壁を触り始めた。


「たしか、このあたり」


 恵比寿さんはトンネルに何か異変がないか、ライトを上下に振って確かめた。


「何もないですよ」


「若い保線員は、言ったんだ『何故なら地下は温度が一定に保たれるから、死体の保存に適している』って」


 厚手の皮の手袋でトンネルの壁をさすりながら、佐々木のおじいさんは言った。


「周りの連中も今のお前らみたいな顔をしたよ」


「その若い保線員は何か知っていたんですか?」


「さあ」


「さあって」


「その時にここで予定にない電車が通過する音がしたのさ」


「ここで?」


「そうここは地上に通じるような避難路が作れない。なぜなら地上側が皇居すれすれだからだ。ここで列車がくる合図がはいると、保線員が全員パニックなった」


「そういう落ち着くのが原則なのに」


 恵比寿さんはボソリとそういった。


「このあたりの保線をやる場合、あらかじめ避難路は頭に入っている。勾配を上って近くの避難路に戻るのも、カーブを超えてずっと先の避難路にいくのにもどちらからも遠すぎる」


「で?」


「バラバラなった保線員は、それぞれの信じる方向の避難路に走った。荷物の無い保線員は通路に上がって避け、工具類を引き上げる連中は必死に通路に引き上げた。その間も警報灯は回り続ける。しかし、電車は来ない。しばらくして、警告灯の故障であることがわかったのだが、それがわかるまで二、三十分経っていただろうか」


「えっ…… まさか」


 恵比寿さんが言うのは、おそらく佐々木さんが言っていた『行方不明』のことだろう。この地下鉄内で行方不明になったということか。


「噂をしていた男がいない。早々に点呼を取るべきだったのだが、何しろ全員混乱していたんだ」


「その『死体』がどうとかと言っていた若い保線員は?」


「そいつはなんとか間に合って避難路に避けていて無事だったようだ」


「そ、それで」


「そんなトラブルで始発を止めるわけにはいかなかった。数名が残って切りのいいところまで保線を実施しながら、残りの保線員で手分けをして噂をしたその男を探した。しかし、始発近くなっても見つからない。遠くの避難路から地上に出たかもしれないと考えて捜索を打ち切った」


「そのまま行方不明ってことですか」


 佐々木のおじいさんは首を横に振る。


「出てきたんだよ。翌日の朝は出社してきた」


「だって、最初に行方不明になったやつの話だって」


「いいから聞け」


 佐々木のおじいさんは言う。


「事務所で事務処理をしていると、社長がやってきた。なんだろうと思って話を聞くと、前の日の作業で一時、行方不明になったという報告を受けている、そいつと会いたいというのだ。応接室で社長が待っているところにそいつを連れていくと、応接室には二人スーツを着た来客がいたようだった。そいつが応接室に入っていくと、今度は社長が応接室から出てきてしまった」


 長くしゃべったせいなのか、佐々木さんは大きなため息をしてから、続けた。


「すぐに出てきた社長に、中にいたスーツの人が誰なのか、と聞くともらった名刺で『宮内庁』の方だということがわかった。社長もなぜ宮内庁の人間が訪ねてきたのかはわからなかった」


「……もしかして、そいつが陛下の良くない噂を流すから」


「そうとしか思えない。保線員をやっている男が皇族とか、関係者のわけがないからそれくらいの理由しかないだろう。しかし、どういう情報網があって、どこから聞きつけてきたのか」


 俺は噂をしていた人が行方不明になったことが心配だった。もしかして、この宮内庁の連中が暗殺…… いや、わざわざ社長に『宮内庁』と知らせているのに、このまま行方不明になったらあからさますぎる。


「宮内庁の人が変えていくと、そいつは体調が悪いから今日は帰ると行った」


「あやしいな」


 恵比寿さんが突っ込む。


「それきり会社にこなくなった。電話もつながらないし、数日後経ってから社長と一緒に自宅にも行ったが、部屋の中はきれい片付けられていて、跡形もなかった。そのまま行方不明さ」


 いや、そんなあからさまなことをしたら宮内庁が何かされたに違いない。なぜそんな分かりやすいやり方をしたのか。


「……」


 恵比寿さんが、指をさした。


 佐々木のおじいさんと俺がその方向を見るとそこで黄色い警告灯がクルクルと回っている。


「列車がくる?」


「こっちのトンネルで列車がくるなら、大手町の方からだ、神保町方向に逃げるぞ!」


 俺はたずねた。


「なぜ列車が来るんですか!? 終電も、回送も終了したはずじゃ」


「分からない。とにかくこっちだ」


「左の通路に乗ればやり過ごせないですか?」


「!」


 佐々木のおじいさんが、急に顔をしかめた。


 恵比寿さんが走りながら、言う。


「落ち着いて、転ばないように」


「はい」


「佐々木さん、早くこっちに上がって」


「あ、足を……」


 佐々木のおじいさんが、珍しく口ごもった。


「足をどうしたんですか?」


 俺が声を掛けると、佐々木さんが苦しそうに声を出す。


「くじいた。足をくじいた」


「とりあえず、ここに上がれませんか?」


 痛い方の足を上げて、通路側に乗せるが、踏ん張る時、佐々木さんの顔が歪む。


「恵比寿さん、手を貸してください」


 俺と恵比寿さんで、佐々木のおじいさんを持ち上げる。意外に体重があるのに驚く。


「イタタタ……」


 通路に上げた瞬間、佐々木さんが転んでしまう。通路に乗っている恵比寿さんと下にいる俺で必死に支える。


「痛みますか」


 こくり、と佐々木さんはうなずく。恵比寿さんがあたりを見回す。


「こりゃだめだな。避難路を探さないと」


 恵比寿さんの考えは、きっとこうだ。通路に上がれば電車は避けられるだろうが、通路で立っていられないとなると困ったことになる。下手をすれば佐々木さんを支えようとして俺か、恵比寿さんまで巻き込まれてしまう。


 恵比寿さんが線路わきに何かを見つけた。


「ここに避難路があるぞ」


「避難路……」


 佐々木のおじいさんは何か言いたげな感じでそう言った。


「とにかく入って、早く! 列車が来る」


「はい」


 俺はとにかく佐々木さんに肩を貸し、恵比寿さんの誘導に従って扉の方に進む。


 警告灯は回り続ける。


「いそげ!」


 避難路に入ると、佐々木のおじいさんが小さい声で言うのが聞こえた。


「ここに避難路なんてあったか?」


「いいから」


 恵比寿さんが引き込むように俺たちを引き入れ、バタンと扉閉めた。


 閉めた後、恵比寿さんが頻りに扉のノブをひねったり、サムターン(施・解錠するための金具)を動かしたりしている。


 全員が無言のなか、恵比寿さんが行うガチャガチャした操作の音だけが響く。


 しばらくそうしていると、恵比寿さんの手が止まった。


 扉のところにいた恵比寿さんが振り返ると、狭い通路の中で互いのヘルメットの明かりで互いの顔を照らし合った。


「こんな場所に避難路があったか?」


「か、考え違いじゃないですか。見た感じ、普通の避難路ですよ。実は、前からあったんじゃないですか」


 恵比寿さんはそう言うと、通路の奥へと入っていく。


 佐々木のおじいさんは、お尻をついて、座り込んでしまった。


 俺は、恵比寿さんの後を追うようにして歩いて進んでいくと、突き当りに扉があった。


「そこに入る必要ないんじゃないか」


 後ろから佐々木のおじいさんが言う。


「列車が通り過ぎてから、さっきのところから線路に戻ればいんですよね」


 そう言って、俺は佐々木のおじいさんに同調した。


 半蔵門線の大手町の駅ですら深いのに、さらに勾配を下がったここから階段で地上に出るのは相当きつそうだ。


「いいんです。こっちにいくしかないんですから」


 恵比寿さんは何か慌てているような気がした。


「いやいや良くないだろう。どうした、何があった?」


「開かないんです」


「えっ?」


「トンネルからここに入ったそっちの扉。開かないんです」


 つまり戻れないから先に進むしかない、ということなのか。


「そんなバカな」


 佐々木のおじいさんは壁をつたって、なんとか立ち上がる。そして、扉の近くにゆっくり移動する。俺も佐々木のおじいさんのところへ戻った。


 佐々木のおじいさんは、扉につくと、サムターンを右に回し、左に回しし、ドアノブを必死に回す。ドアノブは回らないようで、ドアを押したり引いたりするが、どちら方向にも動かない。


「どうなってるんだ」


「納得しましたか?」


 奥にからこっちに戻ってくる恵比寿さんの声が聞こえた。


 入口の扉付近に恵比寿さんが来ると、言った。


「あっちの扉も閉まったら戻れない可能性がある。だから今度はストッパーを挟んで開けっ放しにして先に行きましょう」


「ちょっとまて、先に行くつもりか。少し立ち止まって考えるべきだ。やっぱりここは通常の避難路じゃない。何故なら避難路の扉を、わざわざ入るだけ入れて元に戻れないような構造にする意味がないからだ」


「普通の避難路じゃないって、どういうことですか」


「黙って」


 再びお互いのライトで互いの顔だけが闇に浮かんだように見える。


『キシャーァ』


 繰り返し、何かが鳴く声が聞こえる。電車の線の方向からではなく、この先の扉の先からだ。


「ひっ……」


 悲鳴に似た短い声を上げ、佐々木のおじいさんが尻餅をついた。


「落ち着いてください」


 そう言う恵比寿さんの声も震えているように聞こえる。


「足をくじいているんだから、仕方ないですよ」


「お前が変な音が聞こえるというから、調べるというから…… 我々までこんな目に合うんだぞ」


 佐々木のおじいさんを擁護したつもりなのに、俺に八つ当たりしてきた。


「そんな」


「確かめてきな」


 恵比寿さんが言う。


「今の『異音の正体』が知りたいんだろう」


「……」


 この通路を戻れないなら、先に進むしかないだろう。確かにその考えも間違いではない。しかしここにじっとしていたらどうだろう。返ってくる時間を大幅に過ぎれば、駅で待機している保線員の人が探しに来てくれるはずだ。安全を考えればその方法が一番いいはずだ。


 俺は保線員二人に言った。


「待っていましょう。助けが来るのを」


「……いや」


「それはどういう理由で言っている、恵比寿」


「避難路があるというのは俺も佐々木さんも知らなかった。さっきの警報灯が回転し、佐々木さんが足をくじかなければ、ここに入るということはなかった」


「けれどこっちが入れたんだ。外にいる他の保線員がここ探せない理由はないだろう」


「何かおかしい。この場所に扉らしいものを見た記憶がないんです。けど今日は見えた。絶対にあるわけがない避難路の扉が」


 保線員の二人はここで待っていても助けは来ない、と思っているようだった。


 俺はポケットのあたりで振動を感じ、スマフォを取り出した。


「……」


 画面を確認するが、電話があったわけでも、メッセージがあったわけでもない。振動したように思ったのは俺の錯覚だったようだ。しかし、これがヒントになった。


「そうだ、携帯です。携帯で電話してくださいよ。地下鉄も全線で通話とモバイル通信が出来るんですよね?」


 スマフォの電波を見て安心する。


「外側からなら開くんだから、来てもらえばいいんですよ」


「そうだ、早くそれを」


「佐々木さんが気持ち悪い怪談をするからですよ」


 恵比寿さんが携帯電話を取り出し、保線の待機所に電話をした。


『おう、どうした恵比寿』


「避難路に入ってしまって」


『避難路? ああ、避難路な…… あれ? お前今日は大手町-神保町じゃないのか?』


「そうです。避難路の扉があかなくなってしまって」


『いや、その間はないぞ。大手町からだから下り方向だよな』


「いや、そのはずなんですが、避難路があったんです。そこに入り込んでしまったんです」


『……距離標は覚えているか? おお…… わかった…… 左側だな…… すぐ向かう』


 通話を切ると、恵比寿さんの表情が明るくなった。


「鈴木さんが来てくれるそうです」


「鈴木か、あいつなら大丈夫だ」


 俺たちは入ってきた方の扉に戻った。


 もう一度、ドアノブを回したり、サムターンをひねったりするが、相変わらず扉はびくともしない。


「何か挟まっているんじゃないのか?」


 佐々木のおじいさんはそう言って扉の隅々を見て、何か、扉が開かない原因を探した。ものが挟まったり、引っかかったりして扉がビクともしないのはよくあることなのだそうだ。


「何もないな」


「ないですね」


 だとすると、鍵が一方からは開くのに、一方からは開かない特殊な錠の扉だということになる。佐々木のおじさんが言うには、そういう扉もあるようだ。


 そのあと三人は思い思いにスマフォを操作しながら時間をつぶしていた。


 全員が同じ壁に背をもたれて、各々のスマフォが顔を照らしている。


 そんな暇つぶしにも飽きたころ、恵比寿さんのスマフォが振動した。


「鈴木からだ」


『おい、ないぞ。どこにもない。やっぱりそんな避難路はないぞ」


「そんなことない。佐々木さんもここにいる」


『しかし、見るかぎり、どこにも避難路の扉はない。距離標は…… であってるな?』


「はい」


「おいっ! 鈴木! ここだ!」


 恵比寿さんのスマフォの音声を横から聞いていた佐々木さんが、扉を手で叩きながら叫ぶ。


「鈴木! (ドンドン) 鈴木! ここだ!」


「聞こえますか? 佐々木さんが扉を叩いている音」


『電話からは聞こえてくるんだが……』


「場所間違えてないですよね? 大手町から……」


『間違えてないよ。間違えてない』


「鈴木! ここだ! 聞こえるか?」


 佐々木のおじいさんが勢いよく扉を叩くせいで、耳が痛くなってきた。しかし、この音が聞こえないということはどういうことなのか。


 これらすべてが嘘で、三人に俺が担がれているのだとしたら……


「お願いです! 助けてください!」


 もう耐えられなくなって、俺も叫んでいた。驚いたように佐々木のおじいさんが振り返った。


「恵比寿さん、佐々木さん。それと外にいる鈴木さんもグルになって、俺を騙しているんじゃないですよね?」


「そんな風に見えるか」


 佐々木さんは手の平を俺のほうに見せた。


 扉を叩きすぎて、真っ赤になっている。


「騙すなんてしない。本当に…… 閉じ込められたんだ」


『電話はいったん切るぞ。こっちから周辺の壁に何か隠れていないか探してみる』


「お願いします」


 恵比寿さんが通話を切った。


「はぁ……」


 ため息して、壁に背中をつけたまま座り込んだ。


「待つしかない。鈴木が見つけてくれることを」


「……」


 待つって言ったっていつまで待てばいいんだ。俺は苛ついていた。早くこの奥から聞こえてきた『異音の正体』を確かめたかった。正体がたとえどんなものであれ、バズる記事に書き上げないと、俺はこの後生活できない。こんなところで、じっと救助を待つ時間などないのだ。


「佐々木さん。扉を開けっ放しにする道具、ありませんか?」


「そんなものどうするんだ」


「あの扉の先、異音の正体を確かめてきます」


「お前が戻ってくるまでに、鈴木が来たらどうする?」


「電話をください。すぐ戻ります」


 俺は自分の携帯番号を教えた。


「ドアを止めておくなら、この紙を数回折り曲げて下に挟んでおけ」


 佐々木のおじいさんから大き目の紙を重ねたものを渡された。


「開いたらすぐ電話する。さっさと戻って来いよ」


 佐々木のおじいさんと握手した。


 恵比寿さんは座り込んだまま、小さく手を振っていた。


「行ってきます」


 と言って俺も手を振り返した。



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