第二十七海路 1 雪の大樹
「えー! もう消しちゃうの? いい所だったのに」
俺たちの頭に、とてもふざけたような女性の声が響いた。俺たちの意識は過去から現在へと戻っていた。
「コイツの自我を消せと言ったのはお前だろう。×××」
ノイズが入り、初めから喋っていた声が後から来た女性を何と呼んだのかは聞こえなかった。
「面白い陸戦がいると言うからここまで運んできたのに、実際目の前にしたら自我を消せ……挙句それを忘れただと!」
「え~、怒んないでよ。仕方ないじゃんまだ本調子じゃないんだし」
俺たちの頭の中で、謎の喧嘩が始められた。その喧嘩が落ち着くころには、俺たちは一つの決断を下していた。
「もういいか? 自我を消すのだろう。早くしろ」
「ありゃ? 意外と協力的? いいの? 自我消えたら君達、人間襲うよ」
そうか。こいつ等が同胞たちを暴走させていたのか。ただもう、どうでもいい。俺たちは、疲れたのだ。俺たちも早く、向こう側へ……。
「フン、さっさと協力していれば、この面倒な奴も来ずに済んだのにな。消すと言っても表面的なものだ。お前たちの根底にある兵器としての側面は残してやろう」
無言を肯定と取ったのか、少しずつ自我が消えていく。兵器としての自我を残すのは、その方が都合がいいからだろうか?
きっとこれから俺たちは、多くの人間を襲うだろう。だがもう、それでいい。きっとある程度すれば、何処かの民間会社が俺たちを破壊してくれるだろう。
今はそれだけが、望みだ。
「最後に一つだけ、質問をさせてくれ。雪の大樹とは、なんだ? 同胞だったモノたちがみな、口を揃えて言っていたのだが」
俺たちは最期に、仲間たちの無念の単語を思い出した。今から自我を失うため、そんなものを知ったところでどうにかなるわけではないが、どうしても気になった。
「……あ、アレ! あれはねぇ……」
女性の声は相変わらずであった。よく言えば天真爛漫。悪く言えば落ち着きがない、そんな声であった。
しかし次の言葉は一変して、冷酷な氷のようであり、俺たちの意識が最後に恐怖した。
「私だよ。私。スノウ・ユグドラシル。人類を管理する神の名前だ。覚えておけ」
神、か。そんなものがまだ存在すると言うなら、確かに恐ろしい……。
「表層自我消滅確認。なぜこんな回りくどいことをするのだ? この前の黒い陸戦もそうだったが……」
夢うつつのように、二人の会話が聞こえる。しかし意味は理解出来ない。
「元々混乱してたからね彼ら。そのまま暴走させてもまともな戦闘は出来ないでしょ。だったら視界に入ったものを破壊するだけの兵器にした方がいいかな~って」
「……それでは他の者たちの邪魔をするのではないか?」
「だからね……で……。いるんでしょ、その島に」
「成程。こんな出来損ないで倒せるとは思わないが、確かにそれなら……」
理解できる部分が減ってきた。それにしてもこのコワス白い壁コワスをハカイコワス壊すコワスコワス……。
コワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスゥ。
「ありゃ、壊れちゃった。予想通りだけど。じゃあ予定通りあの子たちの元へと届けてあげて。きっと彼ら変に頭いいから、深読みして『強敵だァ』とか言うと思うよ。コレが造られた意味とか考えちゃってさ。どんな顔して鳴いてくれるんだろう。楽しみにしているよ、鬼丸クン」
111000111000001010110011111000111000001110101111111000111000001010111001
―――
あれからどれくらいたっただろうか。この琥珀色の体も馴染んできた。自我もこの通り統一され、俺は俺として、目に映った人間をハカイする。
ただ今は動きが制限されている。ゴッドアップルと名乗った人工知能の話では、間もなくハカイしがいのある人間に合わせてくれるらしい。
自我が統一、一新される際、我らが母、雪の大樹様に言われたことを思い出す。
ものは一度ハカイすればそれきりだが、人間はハカイしても次が出てくるから何よりもハカイしがいがある、と。
「聞こえるか、出来損ない。今からお前が対峙する陸戦を破壊せずに、人間だけを破壊すれば、更なる人間を破壊させてやろう。ただ陸戦を破壊すれば、お前が破壊されると思え」
その通信を最後に、俺は星の海から射出された。
星の光を頼りに降下を開始する。目標は地図にない島。向こうに着く前に、武器の確認をしておこう。
手の甲には機関砲、そして背中には棍棒が二つ用意されている。感覚を確かめるために、手に取ってみる。
「全く、我が兄上はまたこんな危険なことを。我が助けに来なければどうなっていたのやら」
不思議だ。宇宙には音がない。なら何故再び、彼女の声が聞こえてくるのか。
「ヘ……ル?」
海馬に残された赤髪の少女の名前を唱える。少女、と言って良いのかは疑問だが。
「ご名答。流石は愛しの兄上。そうだ。上級人工知能で兄上の妹、ヘルだ」
彼女の姿は見えない。その時、左手に意識が伝わった。棍棒を持っていないのに、何か握っている感覚がある。この感覚は、とても冷たく、優しい。
小さく弱そうな手だ。ハカイするべき人間の手なのに、どうして愛おしいのか。
「しっかりと握れよ。手放せば二度と、戻れなくなる」
俺は懐かしいその手を頼りに、溶接跡だらけの体を捨てた。その時、その体から何かが聞こえた気がした。
「行くのか? きっと辛い戦いになる。雪の大樹には、今のままでは勝てないぞ」
だとしても、俺は……。
いよいよヤツが、スノウ・ユグドラシルが動き出します。まもなく海上編最終章! お見逃しなく! そしてこの作品が面白ければブックマーク、感想などお願いします。評価の方はこの下の星マークからお願いします。




