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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十五海路 7 猛虎沈黙

 コハクへと引っかかった三つの爪は、力強くその関節を曲げ、自身とコハクとのつながりを強固なものとした。

 その異変に、流石のコハクも気が付き距離を取ろうとした矢先。


「これは……。イナバ百式黛カスタム周辺に、微弱なプラズマを確認」


「ウチも確認した。機体からも、電気信号が発せられています」


 八型改とともに誘導弾の装填操作を行っていた隼人が、目の端に捉えたそれを報告した。彼の報告通り、イナバ百式黛カスタムの機体周辺に、蒼いプラズマが舞っていた。


「電磁シールド展開! 総員、対ショック防御!」


 プラズマによって八型改の操作系がやられ、そこから発生するであろう最悪の事態を避けるため、クリスタは咄嗟に各員の安全を確保させた。

 それぞれ、自身の目の前にある壁などに額を押し付け、衝撃緩和を試みた。

 そんな中、ヒトではないヴリュンヒルド八型改は当然稼働し続けている。乗組員が操縦桿から手を離したことにより、今この機体は彼女一人で動かしている。

 その為、操作音など響かないはずなのに。


「ちょっと! 鬼丸クン何してるんですか⁉」


 背筋を伸ばし、カタパルトの操作パネルに手を置く鬼丸の姿がそこにはあった。


「俺のことは気にするな! 元々俺がこんな奴だって知ってるだろ。お前の操縦、何年やってきたと思ってるんだ?」


「そ、それはそうですけど……。て、て言うかそんな言い方……ズルい……です……」


 その機械の言葉は、少しずつ威勢を失い、そして最後は機関部の唸りにかき消された。


「よく聞こえなかった。まあなんでもいいが、機体は持たせてくれよ」


「お任せください! ヴリュンヒルドシリーズ最高傑作の名に懸けて、必ず君をコハクの元へ……あれ?」


「どうした?」


「いえ、なんでもありません。それより見てくださいあれ!」


 八型改は、鬼丸の前のモニターに、イナバ百式黛カスタムを拡大し、それに重なるように別窓でコハクの姿を拡大表示した。


「先ほどのプラズマがコハクに集まって……」


「止まった! 今コハクの機能が一時的に止まりましたよ!」


 一瞬、痺れるように痙攣したコハクの動きが止まった。


「今です紅蓮さん!」


 爪を解除し、海上を滑るようにコハクから離れるユナの声を聞いた鬼丸は、口角を大きく上げた。


「この戦い以降、陸戦にはカタパルトが標準装備されるだろうなぁ! 起きろクリスタ、やるぞ‼」


「話は聞いたわ。黛ユナ、後でしっかり話を聞かなきゃいけなさそうね」


 そう言いながら彼女は、自身の手元にある拡声器に口を近づける。これは軍艦などに用いられる伝声管のような役回りを果たしている。

 陸戦最大のコックピットを有するヴリュンヒルド八型改が、各部に的確に指示を通すために造られたものであり、各操縦席に設置してあるが、大声を出せば割と伝わるため、機体両端に位置するキルとコルセア意外はあまり使用しない。

 そんな伝声管を、クリスタはわざわざ使う。


「ヴリュンヒルド八型改、攻撃開始!」


「応!」


 その言葉を合図に、鬼丸がカタパルト上の榴弾を投射する。着弾目標地点は勿論、クリスタがはじき出した座標。

 静かな電子音の後、戦乙女の腕から鉛の塊が投射される。それは一切のブレを生まず、放物線を描きコハクへ向かい、機体正面ど真ん中に突き刺さる。


「コハク、動きます。機関の動きを確認」


「もう遅い! 燃え上がれ!」


 カチッ、と何かが合わさる音が、コハクに小さく響いた。その人工知能は信管作動の音を、果たして知っていたのだろうか。

 琥珀色の機体胸部を中心に爆発が起こり、装甲へ引火する。それは次の瞬間、関節部から噴出された消火剤によって鎮火された。


「普通はそう来るよな。まずは自身の身の安全の確保。だがそんな状況で、コレが躱せるか?」


「今よ! 誘導弾発射!」


「了解しました。 五番、六番、開きます!」


 各所に配置された熱源誘導弾。腕部に装備された一番から四番は損傷し、使用できないため、八型改はそれ以外、腰周りに装備された五番と左脚部に装備された六番からそれを放った。

 二本の誘導弾はコハクの機関が発する熱目掛けて煙を吐く。その後ろから、一本の誘導弾が続く。


「七番、発射しました!」


 少し遅れた隼人だが、確実に一本を発射した。

 熱源誘導弾の存在を認識したコハクは、それらに背を向け、可能な限り最大速で回避を試みた。マニューバで躱すにしろフレアでやり過ごすにしろ、距離と時間が必要である。

 しかし次の瞬間、コハクの機能は停止した。いや、停止させられたと言った方が正しい。

 先回りしていたイナバ百式黛カスタムのプラズマアンカーによって、一秒間の足止めを喰らった。

 ほんの一瞬。その一瞬で、熱源誘導弾は榴弾によって脆くなった背中に到達した。コハクがその事実を処理した時には既に、弾頭が火を吹いていた。


「フォックスワン、フォックスツー、着弾確認。スリーも勿論確認した。全弾命中だ!」


「コハク機関停止を確認! スリープモードに入りました。皆様お疲れ様でした!」


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