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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十五海路 5 推参! イナバ百式黛カスタム!

「聞こえますか紅蓮さん! 俺です! 黛ユナです! イナバ百式黛カスタム、推参!」


「む、あのモノクロのガキか!」


 ユナの乗ったイナバ百式は脚部のモーターボートをスケート靴のように使い、睨み合う二機に接近する。

 五人以上の運用を想定されたヴリュンヒルド八型改が規格外の大きさである全長八メートル。無人機のコハクは全長二、七メートルと青無人機の中では比較的大きいのに対して、イナバ百式は有人機にもかかわらず全長一、九メートルしかなく、裸眼では海上に浮かぶ少し大きな黒点レベルに見えた。

 しかしそれは、アームを含めない場合である。その全長よりも長い二本のアームの動作を確認するかのように、ユナはそれを巧みに動かしながらコハクに接近する。


「下がりなさい! それ以上の間合いは!」


「サブエンジン、起動!」


 クリスタが警告した瞬間、イナバ百式は唸り声を轟かせ、加速する。海面に飛沫が舞い、いびつな波紋が連鎖する。


「三十メートルが危険なんですよね。ここに来るまでに見てましたから。それなら入った瞬間に接近するだけです!」


 両足を肩幅まで広げ並行に。腰を落とし姿勢を低くすることで少しでも抵抗を減らしたイナバ百式は、ヴリュンヒルド八型改の下を素早く通り過ぎる。


「ウチよりも早い⁉」


 鬼丸は下からの突き抜ける風圧を、足で少しだけだが感じられた。


「喰らえ鋼の鉄槌!」


 ユナの叫びとともにイナバ百式はジャンプをし、左腕部のユンボを掲げた。そして落下の勢いと合わせてそれをコハク頭部目掛けて振り下ろすが、しょせんは工業用陸戦。動きがあまりに呑気してたんでその隙に棍棒を構えたコハクがそれを交差し、しっかりと受け止める。


「逃げろガキ! 貴様で勝てる相手ではない!」


 珍しく声を張り上げたキルの警告虚しく、コックピット部に鈍い前蹴りを入れられたイナバ百式は後方へと飛ばされる。


「不味いわ。イナバ百式は水中に対応していないの。下手するとあの子、感電で死ぬわよ」


 イナバ百式はコストダウンのため、防水対策にそこまでリソースを割かなかった。(とは言え雨水程度なら無害だが)


「なんだと!」


 大きな声を出したキルを見ると、髪は紅いまま顔が真っ青であった。彼女はすぐコルセアに、


「あの陸戦を追え! 今ならまだ間に合う!」


 と危機迫る声色で要求する。ユナを助けることに同意をしたコルセアが操縦桿を動かそうとしたその時。


「そこから動かないでください! 面白いもの見れますよ!」


 次の瞬間、吹き飛ばされたはずのイナバ百式から、一つの鋼のつぼみのようなものが射出された。そのワイヤーは弧を描くように弛みながら八型改の脚部目掛けてつぼみに続く。

 遠心力を得た鋼の塊は、三つの爪を開くことなく八型改の右脚部の周りを回り始める。その正体は、イナバ百式姿勢安定用アンカー。


「なんか、なんか纏わりついてる! ウチの足になんか付いてます!」


 徐々に回転を速めた錨は円周が八型改の脚部の太さと近づいた時、その整った三本の爪を外側に開き動きを止めた。


「ちょっと引っ張りますよ。そんなに重くないので耐えてください」


「え?」


 その一言の意味を問いただそうとした八型改だったが、宣言通り錨から力がかかり海面方面へと引っ張られた。


「キル上昇! 八型改は今の位置に留まる計算!」


 クリスタが出した咄嗟の指示に二人は従い、その位置に留まる。

 イナバ百式は空中に留まるヴリュンヒルド八型改を支えに、サーカスなどに見られた空中ブランコの要領で着水を免れる。


「もう一回飛びます! 合図をしたら奴に攻撃してください!」


 ヴリュンヒルド八型改をカイトに、自身の脚部がボートとしての機能を担いイナバ百式はカイトボードの選手のように波に乗る。


「攻撃ってどうする? 腕で攻撃できそうにないぞ。AR(アサルトライフル)もこの状態じゃあ安定しないし」


「誘導弾でもアルファレーザーでも体当たりでもなんでもいいわ。とにかくこのチャンスをモノにするわよ!」


「「「「「「了解!」」」」」」


 ずいぶんと大所帯になったものだとしみじみと感じた鬼丸は、左腕に格納されたアレを確認する。八型のままできっと損傷していたが、改になった今なら。

 予想は大当たり。カタパルトには傷一つついていなかった。


「カタパルトを使う! 隼人は八型改とともに誘導弾を使え!」


「りょ、了解」


 鬼丸の操作により正体を露わにする爆発物投射カタパルト。本来対陸戦で使う場合は身を隠し仕様するものだが、今の鬼丸達には遮蔽物がない。


「流石戦の天才ね、八型改のサポートも遮蔽もなしで、一人でやる気?」


「お得意の皮肉か? 暇なら計算手伝ってくれよ」


 いつもなら爆発までの時間、投射角度などの計算は八型改が担っていた。彼女が人工知能として目覚めた際、八型に元々積まれていた演算機が機能しなくなったためである。


「アタシが手伝うんだから、失敗は無しよ」


「誰にモノ言ってんだ。当たり前だ!」

とうとう奴の登場です! 工業用陸戦引っ提げたモノクロの少年、黛ユナと、彼の機体イナバ百式黛カスタムの活躍、どうぞお楽しみに!

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