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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
80/200

第二十五海路 4 オーバースペック

「ちょっと待て、人工知能相手に、そんな高度な回路組むか?」


 自身の中に浮かんだ疑問を形にする為鬼丸は、クリスタを真似て右手を自身の唇にあてた。

 発言があまりにも突拍子もなくて、キルとクリスタは石化したかのように制止した。


「棍棒の件もそうだ。棍棒がメインに見せてガトリング砲を忍ばせていた。あまりにも騙しに特化している」


 だからなんだと言うほどに、彼の中でまとまっている訳ではない。


「何が言いたいの?」


「何て言えば良いのか……よくわかんないけど」


 そう言って頭を掻きむしる。未だキルとコルセアの奮闘により、八型改は回避を続けているが、全て躱せているわけではない。

 鬼丸は何かを思いつき、クリスタに質問を始める。


「クリスタ、お前の知っている最高の人工知能ってなんだ?」


「何って……」


 鬼丸の発言に何かを感じ取り、背もたれに腹を預け彼に向き直る。


「まずはカミカゼね。半ば伝説と化してるけど、もし実在したのなら天地もひっくり返るわよ」


 クリスタは自身の指を折り、数を数え始める。


「次にドイツが開発した災害予測AIギャラルホルン。あれが導入されてから災害被害が大きく抑えられたのは本当にすごいと思うわ。あとはアダムズ・ハンズとか、ユグドラシルとか……ねえ、結局何が知りたいの?」


 クリスタは指の動きに合わせて自身が知っている中で特に優秀とされている人工知能の名前を羅列していった。


「その手のAIって、確か超級とか言われてなかったか? んで確か超級は電子、物理ともに厳重な警備が敷かれているとか……」


 ヴァルハラは人工知能を相手に戦闘を行っているため、職員には人工知能に関する知識が人並み以上に必要とされる。

 しかし鬼丸は戦の天才であっても、このような知識には疎い。その為自身よりも正確に、そして膨大な知識を備えているクリスタに質問をする形で答えを導こうとしていた。

 鬼丸が打ち立てた仮説。それはコハクが本当に対人工知能用に造られたものなのか。


「その通りよ。と言ってもそれらも第三次以降、沈黙しているけどね」


「陸戦にその超級は採用されるのか? 少なくとも八型改はそんなタマじゃないだろ」


「超級レベルの回路は大きすぎて陸戦には積めないわ。それこそ戦艦とか施設とか人工衛星とかにやっと搭載できるレベルよ」


「その理論で行けば陸戦の人工知能って、そんなにレベルは高くないんだよな? 特別な対策をする必要がないくらい」


「八型改が特別だから忘れがちだけど、本当は陸戦の人工知能って単純な動作しか出来ないはずなのよね。それこそ自身が壊れるまで対象を守ったり。どうしても戦闘することを想定すると、巨大な回路は積めないのよね」


 集中力の低下からか、被弾が増える八型改。

 他の陸戦、特に人工知能を搭載した無人機を相手に想定した場合、その人工知能はさほど警戒すべきではない。多くの製造所はあまり効果のない人工知能対策よりも、戦闘面にリソースを割いた。そうすることで活動の場が限定されない為である。


「つまり陸戦の人工知能はレベルが低い。対策の必要はない。だったらアイツは対超級ってことか? いや違うだろう。あんなちっぽけな装備とちょっとした騙しで敵う相手じゃない……」


「流石に対超級はバカげてるわ。それこそピストル一丁で国一つ相手どるようなものよ」


「それじゃあアイツのスペック、無駄じゃないか? 現に今俺らに警戒されているわけだし」


 忘れられがちであるが、陸戦は兵器であると同時に商品である。売れなければ、意味をなさない。

 どれだけ優秀な機体でも、生産コストが高すぎては値段も跳ね上がり誰も買わないだろう。たった一機の陸戦を買うのに、国家予算何十年分を費やす国などないからだ。


「……確かに対人工知能用って考えは改める必要がありそうね」


 クリスタは鬼丸の独り言を聞いて、前を向きなおした。


「新井本部長、一時撤退を進言します。相手に関する情報が掴めないままの戦闘は危険すぎます」


「クリスタか。そうしたいのはやまやまだが、コハクには電磁結界が効かない。そして先の戦闘でシャークフォースもパイレーツスパイトも大きな被害を受けている。打開策を検討しているが……」


 新井は結論を出せないまま通信を繋いでいる。引け、とは立場上言えない。しかしそこで敵を足止めしろとも、状況を見た今言えたものではない。

 彼は自身の手から血がにじみ出る勢いで拳を握りしめる。彼の足元には様々な資料が転がっており、そこには古今東西様々な陸戦のデータがまとめられていた。しかしその何処にも、コハクやそれに似たデータはなかった。


「せめて奴の動きが止まれば何とか……」


 退路を断たれ、反撃の手段も失われつつある状況で、クリスタは自身の指を噛む。


「すみません……そろそろウチ限界が……」


 ノイズに混じった機械音がコックピット内に響く。八型改だ。しかしその機械音は次の瞬間、サイレンに飲み込まれた。


「なんだこの音!」


 今まで聞いたことのないサイレンに、独り言をつぶやいていた鬼丸は驚き飛び上がった。


「未確認機体接近!」


 防衛に自身のリソースを回している八型改に代わり、手すきの隼人が報告をする。


「場所は何処? 機体は何?」


 八方塞がりな上、敵の新手の襲来を予見したクリスタはいら立っていた。その為怒りを帯びた声に隼人は委縮してしまう。


「六時方向。機体は……おいこれバグかなんかか?」


 代わりに鬼丸が確認と報告をするが、途中から間の抜けた声になってしまった。


「報告ははっきりする!」


 クリスタに軽く怒られ、再び確認を行う鬼丸。二度三度目を擦り、絶句する。そして見た内容を報告する。


「機体は……工業用陸戦イナバ百式。なんか色々増えてるが……」


 鬼丸の目に映ったそれは、姿勢固定用アンカーが頭部に増設され、左腕部には油圧ショベル、右腕部にはユンボを装備し、足元のキャタピラは小型のモーターボートに換装された、工事現場などでよく見かける工業用陸戦イナバ百式だった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。感想、評価などお願いします。

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