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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十五海路 1 報復

 アサルトライフルを構え、射撃体勢をとるヴリュンヒルド八型改。違法製造陸戦コハクとの距離は三十メートルを切っていた。


「どうする? ここからでも届くが?」


 鬼丸の問いに、右手を唇に当て考え込むクリスタ。相手の出方がわからない以上、うかつな行動には出られない。

 不気味なことに、コハクから何か攻撃を仕掛けてくる素振りは見えない。終始八型改との距離を自身の手の平で測り、適度にそれを調整しているようだ。

(さっきからあの様子……。踏み込まれることに警戒してる? 万一何かがあれば、高度を上げて引けばいい。ここは踏み込んでみても良さそうね)

 コハクの動きを分析し、思考を巡らせる。


「もう少し近づいて。何かわかることもあるかもしれないわ」


 あくまで慎重に踏み込む。そのことを忘れないため、クリスタは落ち着いた口調で指示を出す。


「任せな! いくぞキル」


 クリスタの冷静な口調に対して、活気の満ち溢れたコルセアの返事が返る。


「待ちなさい。あくまで慎重に。何かあったらすぐ高度を上げて」


「任された。接近するぞ」


 クリスタはモニター上に示されたコハクとの距離に両目をくぎ付けにした。そのメーターが三十を切ったあたりで、コハクはその距離を保つように後退を始めた。


「速度上げて! 距離二十まで接近!」


 機関が轟音を響かせ唸り出す。始めそれは鈍い音を立てて鬼丸達の不安を煽ったが、すぐに安定したものとなった。


「すまねぇ、調整に手こずった。だがもう大丈夫だ」


 機関補佐として同乗した大将の操作により、安定した出力でヴリュンヒルド八型改は海上を飛ぶ。彼が補佐なのは、主な機関調整は今まで通りヴリュンヒルド八型改自身が行うためだ。しかしアレッサンドロとの戦いでオーバーヒートした時のような事態を想定し、新井が投入を決定した。

 徐々に距離を縮める白い戦乙女と琥珀色の武人。コハクは身軽そうな動きで、飛びのくように距離を取り始める。その足元には大きく静かな波紋が次々形成されていき、それを後ろから追いかける八型改が切り裂いていくというやり取りが繰り返されている。


「鬼丸、二十メートルに入ったら姿勢を安定させるから撃って。外したらお墓作ってあげる」


「寝言じゃないならその墓石、お前の名前が刻まれるぞ」


 表情一つ変えずにスコープを出現させる鬼丸。あまりの手際に、隼人が関与するタイミングは一切なかった。

 依然としてコハクは跳躍を繰り返し距離を取ろうとする。しかしヴリュンヒルド八型改の移動速度が勝り、大きな波を立てながらもその距離を二十メートルまで縮めた。


「今よ鬼丸!」


 前傾姿勢から機体を起こし、姿勢を安定させるヴリュンヒルド八型改。


「スコープ画面に切り替える」


 鬼丸のモニターが高倍率のものへと切り替えられた。彼が画面を覗いた時、コハクの動きは止まっていた。

 その好機を逃すまいと、鬼丸は発砲を開始した。小さな爆発音を奏でながら、そして振動を生みながら、八型改はコハクに向け鉛を乱射する。

 しかし。


「速い!」


コハクは着弾直前でそれを真横に避けた。クリスタの目の裏には、一瞬だがコハクの残像が焼き付いた。

 鬼丸は避けたコハクを追うようにアサルトライフルを横に振る。しかし鬼丸が捉えたコハクは既に残像であり、コハクは八型改の背後に回り込むような形で回避をしていた。


「八型改、奴の速度は追えるか? 偏差射撃をしたい」


「ごめんなさい。あの速度には、追い付けません」


「わかった。アシスト全部停止だ。アナログでやる」


 鬼丸は手元のスイッチを切り、操縦桿を握りなおす。


「アイツ、逃げてる時に手抜いていたな。なめやがって」


 鬼丸は空になった弾倉を放り投げ、八型改の腰の格納部に収納された弾倉を取り出した。残りの弾倉は三つ。手元にあるそれを決められた手順で装填し始めた時、奇妙なモーター音が小さく聞こえた。


「……なんだ今の?」


「鬼丸、アンタにも聞こえた?」


「確実に八型改(おれたち)のものじゃないよな」


 その音の正体は、コハクの前に突き出された腕の甲から何かがせりあがる音であった。棍棒を握ったまま右手を前に突き出したコハクは、その甲から円盤のようなものを出現させた。その円盤には筒のようなものが同心円状に配置されていた。

 そして左手は棍棒を背中に仕舞い、空いた手は右腕を抑えていた。


「あ、あれは」


 突き出された円盤はゆっくりと回転を始め、少しずつスピードを増す。先ほどよりも高い駆動音を鳴らしながら回転するそれは……


「ガトリング!」


 クリスタの絶叫の直後、コハクが先ほどの返礼とばかりに鉛の嵐を叩きこむ。その体は小刻みに揺らしながらも八型改を捉えるために姿勢を安定させる。


「黙れ! 下を噛むぞ赤毛!」


 幸運にも、その所撃はキルの超人的な反応速度による上昇で免れた。急上昇ということもあり、パイロット、機体に大きな負荷がかかったことは言うまでもなく……


「しゅ、出力低下! オーバーヒートしてる」


「ジャムった。攻撃再開まで時間稼いでくれクリスタ」


「ごめんなさい、またやっちゃいました……」


 クリスタの元に、様々な報告が挙げられる。


「わかった。今のは直撃を喰らわなかっただけでも上出来よ。だからと言ってこの状況は不味いわね……」


 モーター音を再び奏でながら、コハクはそのガトリング砲を格納した。その際、コハクは一切の身動きを不気味なほどに取らない。

 十秒間の斉射を八型改の代わりに受けた海面は、大きな水柱を作りあげた。丁度それが空中で形を崩し海面に溶ける頃、八型改はゆっくりと海面に降り立った。

 各機能が制限されているため、挙動が優雅に丁寧になっていた。ヴリュンヒルド八型が芸術作品と捉えられる所以を、鬼丸は久しぶりに思い出し、そしてイライラした。

 その評価を下した人々はこのカイナ島の人々と同じように、目の前で起きている戦いを見ずに、盲目的に平和を詠っていたからだ。

 そんな奴らに嫌悪を示していた自分が同じように、一瞬でも八型改を天使のようだと思ってしまったことに、とても嫌気が差した。


「こいつは芸術作品なんかじゃない。ましてや天使でもなんでもない」


「鬼丸? アンタ何言ってんの?」


 だから、彼は、その感情を言葉に隠す。


「こいつは第七世代型陸上戦闘機ヴリュンヒルド八型・改だ。勘違いすんじゃねぇ」


 自身の腿に鉄槌を落とす。鬼丸の異常な行動に不信感を抱いたクリスタが後ろを振り返った時、彼の青い髪は根元から少しずつ紅に染まり、メッシュの部分がそれに飲まれ始めていた。

 そして彼の顔は鬼の形相を成し、呼吸が激しくなっていることを確認した。

いつも読んでくださりありがとうございます。宜しければ感想、ポイント、ブックマークをよろしくお願いいたします。次回もお楽しみに!

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