第二十三海路 3 兄妹と返り血の天使
クリスタがその場を立ち去ろうと振り返ると、そこには二人の男が立っていた。
「貴方たち……」
「隼人? 大将まで、どうしてそんな恰好してるんだ?」
隼人と大将の姿に鬼丸は酷く困惑した。それは言葉を詰まらせたクリスタも同様である。彼らは柔軟性があり、陸戦を操縦するのに適した陸戦用パイロットスーツに身を包んでいた。白地に隼人は黄色、大将のものには深い緑のラインが入ったものである。
「詳しい話はあとだ。これを着な、紅蓮」
「隊長さんはこっちだ」
二人は鬼丸たちに色違いの陸戦パイロットスーツを手渡した。新井が用意していたものがこのタイミングで届いたのだ。
「制服だと動きにくかったんだよ。これがないとな!」
鬼丸は隼人から受け取ったスーツを地面に置き、制服のボタンを外し勢いよく脱ぎ捨てる。
「……ずいぶん鍛えたんだな。昔見た時よりも筋肉増えてるんじゃないか?」
「こいつはいい追い込みしてるじゃねぇか!」
鬼丸の上半身を品定めしながら感想を述べる隼人と大将。絵巻物に登場する悪鬼のような起伏のある体を持った鬼丸に対し、隼人は人並みレベル。大将はスーツのせいで肥えた下っ腹が浮き彫りになっている。
「そうか? 隼人お前、あんまメシ食ってないな? どうせまた大豆固めた棒で済ませてるんだろ」
「な、大豆バーをバカにするのか? 片手で食べられて便利なんだぞ」
男たちがそんなやり取りをしている間、クリスタは黙り固まっていた。彼女の視線は鬼丸の背中から動かない。
その視線を感じたのか鬼丸はクリスタを見る。あまりに彼女が黙り込んでいるので、人前で上半身をさらけ出した自身の行動を咎められていると感じた。
「あ、すまん昔の癖で」
その言葉で彼女の石化は解かれた。
「……昔っていつの話してるの? アンタの山では許されてたのかもしれないけど、人間社会に溶け込むのならそういう行動は慎みなさい」
淡々と、反論のタイミングを与えず。視線を逸らし後ろを向いて一気にまくし立てる。
「人を野生動物扱いしないでもらえるか? とにかく俺はこっちの影で着替えてるから」
「あっそ」
鬼丸は自身の背後に積まれた土嚢袋のようなものの影を親指で指し、そこへ移動した。
「すまねぇな配慮に欠けて」
大将が自身の右手を胸の前に立て、謝罪の意を表しながらクリスタに歩み寄る。
「いえ、自身の体型にすら配慮が出来ない人間に、配慮しろという方が無理ですもの」
曇りのない笑顔を無理やり作ったクリスタは何かを隠すように大将を言葉でけん制する。
「で、なんの用ですか?」
その態度に怒っていいのか悲しんでいいのかわからなくなった大将が言葉に詰まりながら、先程クリスタに渡したものとは色や大きさの違うスーツを二枚、手渡してきた。
「あー、こっちの紫の方が眼帯の人用で、こっちのがアレだ、キルちゃん用だ。渡しといてくれ。じゃ」
紅蓮の元へと逃げるように消えていった大将から手渡されたパイロットスーツ三枚を抱え、クリスタは八型改の元へと向かう。
風にたなびく紅の髪は、彼女のスーツのラインと同じ色をしていた。
「おっかねぇな。あの子」
「もしかしてあれが噂の紅の天使か! 紅蓮、お前運悪いな」
「紅の天使? なんだそれ?」
紅の天使。天才、クリスタ・リヒテンシュタインに付いたあだ名の一つである。その美しい見た目とは裏腹に、言い寄った男もそうでない関係ない男。同性異性上官先輩関係なく、反論の余地なく言葉のナイフでめった刺しにする姿から付いた蔑称とも言える。
その紅い髪は、決してロートとは訳されなかった。
「まあアイツ、正論砲大好きだからな。あと負けず嫌いってのも作用してるんだろ。何恐れてるんだか」
その彼女は現在、八型改内部にいた。突如乗り込んできた作業員たちに怯えていたキルをなだめている間に彼らは手早く撤収していった。
「もう大丈夫よ。八型改、聞こえる? 今から着替えるから、バカな鬼丸たちが来てもハッチ開けないで」
「了解しました! ハッチ閉鎖します」
「これで良し。どうしてアタシより身長高い人慰めてるんだろうアタシ」
自身の操縦席で、まだ多少過呼吸気味になっているキルを見ながら面倒くさそうに呟くクリスタは、キルにスーツを渡し、それを着るように促す。
「それ、キルのだから。着ちゃって」
「に、兄さん……何処……」
その姿に頭を痛め、額に手を当てる。
「兄さんなら来るから。ほら、これお兄さんとおそろいよ」
「……ホント?」
落ち着きを取り戻したキルは目にも止まらない速さでクリスタからスーツを受け取ると、鬼丸以上に躊躇なく服を脱ぎ始めた。
「ハァ……。兄妹って怖いわね」
クリスタの異名についてはまたいつか。いつも読んでくださりありがとうございます。




