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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十三海路 2 平和と悪魔

「もうすぐ合流ポイントだ。ここからは地獄の六分間、気張ってくぞ!」

 

アルタの檄に奮起し拳をあげる海賊達。


「……というかそろそろ、この団の名前、アルタ海賊団にしてもいい頃合いじゃないか?前はキャプテンが名前なんていらねぇ、って言って保留になってたが」


 大一番を前に一人考え込むアルタ。彼は船首に立ち、さらにブツブツと独り言を続ける。その内容はアルタ海賊団にするかアルタの一味にするかはたまた……そんな生産性のない内容であった。


「いや、ここはシンプルに、海賊野郎・Aチームにしよう。うん。いい名前だ。俺の頭文字も入ってる」


 腕を組み、合点がいったような顔で頷いているアルタの背後に、大きな音が転がり込む。初めに大きな音がしたかと思えば、籠った音が甲板の上を転がる。


「な、何だ?」


「ずいぶん楽しそうな独り言してるじゃねぇか?アルタ」


 驚き振り返ったそこには、転がりながら甲板に着地したコルセアが居た。


「きゃ、キャプテン?」


「全く、心配して来てみればこれだ。くだらないこと言ってないで、アンタも手ぇ動かしな」


「イデっ」


 キャプテンの帰還と時を同じくして、三艦の鮫が船の周りに集まる。頭を小突かれたアルタは、急ぎ空いていた砲の前で身構える。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「コルセアさん、着艦確認」


「上等よ」


 コルセアの代わりに操縦桿を握りしめるクリスタに対し、やることが無くなった鬼丸は操縦席にだらしなくもたれかかっている。

 現在の目的地はミナ島沿岸部に造られた陸戦ドック。新井の話では既に技術者たちがスタンバイしているため、到着次第メンテナンス作業に入れる。


「そろそろ時間です。鬼丸クン」


 八型改に促され、鬼丸は演習用の模擬弾を海上に捨て始める。こうすることによって模擬弾の搬出を行わず、実弾の搬入だけで済むように出来る。

 一刻も早く戦闘に参加するための工夫である。大きな模擬弾は小さな水柱を作り、カイナの海に次々沈んでいく。


「全部出し終わったぞ」


「丁度いい頃合いね。キル、降下開始」


「了解した」


 スラスターの噴射が少しずつ収まり、ヴリュンヒルド八型改は直立のままドックに入る。着陸を確認したクリスタがハッチを開き、降下用のロープを垂らす。


「急げ! 時間は限られている」


 それを合図に作業着姿の在カイナ島ヴァルハラ職員たちが八型改の足元へ駆け寄ってくる。


「アタシ達も行くわよ」


「了解。キルはそこで休んでろ。お疲れ様」


 鬼丸はクリスタに声を掛けられ立ち上がる。背後に疲れを見せるキルを確認し、ねぎらいの言葉を掛けた。


「ん、キル、ちょっとやす……む」


 そう言い目を閉じたキルを確認した鬼丸はロープを伝い降りる。摩擦で手の皮が一句らか剥けているが今はそれに構っていられない。


「お疲れ様です。俺達も手伝います」


 下にいた作業員たちに声をかけるが、彼らは視線を向けずにそれを断る。


「餅は餅屋。あんたらは体でも伸ばしときな」


 資料を口に咥えているため声が籠った作業員にそう撥ねられ居場所に困った鬼丸は周囲を見回す。するとドックの入り口にクリスタの後ろ姿を見つけた。

 彼女も鬼丸同様居場所を失いそこへたどり着いた。先ほどのロープを使い作業員たちがコックピット内へ入っていく所を見ていた鬼丸には引き返すという選択肢はなかった。


「え、誰この人たち? 兄さん? 助けて」


 その予測できない来訪者にキルが怯えているとはつゆ知らず、鬼丸はクリスタの元へと向かった。どうやら彼女は先ほどから一点を見つめて動いていない。


「何見てんだ?」


 彼女の横に並んだ鬼丸の目には、他の島から避難してきた島民とヴァルハラの制服を着た職員が遠方でもめている姿だった。その後ろには【軍は不要、出ていけ悪魔】などと書かれた横断幕を掲げ声をあげる老人たちの姿も見えた。


「……バカバカしい。こんなことで折れそうになる自分がいたとは思わなかったわ」


 その既視感のある情景に鬼丸は考え込む。


「平和ぼけした人間なんて所詮そんなもんだ。きっと帰ったら本部長が、「よくやった二人とも」とかすかした顔で褒めてくれるさ」


「何それ、本部長のマネのつもり? 似てないからアタシ以外の前でやるのはやめなさいよ」


 視線は交わさない。声だけである。長年正面から視線を交えてきた二人には、それだけで十分である。


「……こんなこと言うのはアレだけど、アンタの言うことが確かならアタシ……」


 クリスタは一呼吸おいて、悲しい目をその平和の象徴に向けながら、ぽつり一言。


「平和なんていらない。アンタとずっと戦ってた方がましだわ」


 鬼丸にそんな悲しい笑いを向け、彼女はその場を立ち去ろうとする。鬼丸はその発言に何も言い返せない。

 ただわかることは、そんな彼女の顔は見たくないのだと。どうにもスッキリしないと。彼女の笑顔は清々しいほどに邪悪に満ちたものであるべきだと。


 それに、惚れたのだと。


「全く、最近の若いもんは皆あんななのかい?」


「紅蓮たちが異常なだけですよ、大将」


いつも読んでくださりありがとうございます。感想ブクマ、ファンアートなどなどよろしくお願いします!皆さんの応援が力です!

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