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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十三海路 1 敵襲

「演習海域に陸戦反応!」


「なんだと?」


 通信施設で演習を監視していた隼人がその反応をいち早く察知し、新井に報告する。


「これはどういうことだ!」


 次に声を上げたのは同じくモニターで監視をしていた大将であった。その声に顔を曇らせながら力強く新井が問いただす。


「今度は何事だ!」


「反応の識別ができねぇ。あの陸戦、リストに載っていない」


 基本陸戦を新たに開発、製造する場合は軍務省、陸戦省やその他公的機関に機体名、スペック等を申請しなければならない。現在日本政府は陸戦の新規製造許可を、特例を除き許可はしていない。


「……違法機体、か?」


「そう考えるのが妥当でしょう。今すぐ紅蓮たちに連絡を!」


 その提案を受け入れた新井は、隼人にその仕事を一任し、壁にかけてある白い受話器を手に取った。


「もしもし。こっちからも琥珀色のオチビさんなら見えてるよ」


 その声の主は婆やであった。


「ええ、その機体のことで」


 このヴァルハラ通信施設と島中心にある婆やの執務室は、ホットラインが設けられており、有事の際は迅速な対応が可能である。


「なんだ? 避難勧告ならいらないだろう? もともと今日は演習で人を寄せ付けていないのに」


 今日一日はキノ島近海で行われている演習のため、事前にキノ島への立ち入り規制がなされた。


「その陸戦、どうやら違法製造のようで」


 基本的に陸戦を造るには専用の設備と多くの資源を必要とする。その為個人間で密造することは難しい。

 企業などにおいても、物資の流れから足が付くため容易には行えない。もし見つかりでもしたら、その後一切の製造を禁止されるだけではなく、重い刑が科せられる。


「また厄介だね。そんな物好きがまだ生きていたとは。それで?」


 しかしAIの反乱とともに混沌へと包まれた世界において、公的機関から隠れ製造することは可能である。しかしそれは同時に自分を含めた人類滅亡の時計の針を進めるようなもの。


「違法製造ともなれば、電磁結界が発動しないことが予測されます」


「なるほどねぇ」


 カイナ島の守護神、電磁結界はAIの回路データを入力することによりそれを検知次第高出力のバリアを展開。侵入者を足止めすることが出来る。しかしこのデータは陸戦省から送られてきたものの為、違法製造品に対しては無力である。


「その為全島民をミナ島へ避難させてもらいたい」


「あいよ。こっちは任せな。しくじったらただじゃ置かないからね、ヴァルハラの若いの」


 その言葉を残し、婆やとの通信は切られた。その直後、島中にサイレンが鳴り響き、婆やの声で避難が始まる。

 

「状況は」


 受話器を壁に掛けた新井が確認のため振り返る。


「紅蓮の報告によれば、敵全長約三メートル。小型無人陸戦です。現在は足裏のホバーで海面に浮いたまま、動きがありません」


「よし。八型改はミナ島ドッグまで退かせろ。武装を実弾に変更次第、敵陸戦との戦闘だ」


 現在八型改の武装は演習用のものであり、被害を与えることを目的としていない。素手での格闘は不可能ではないが、その有用性の低さはアレッサンドロ戦で明らかになってしまっていた。


「それから海賊どもに繋げ。八型改の緊急メンテの間、シャークフォースと連携し時間を稼がせろ」


「了解! 隼人、手前は八型改の誘導だ」


 その後、大将と隼人により新井の指示が伝えられる。ダイシャークも演習用の装備ではあるが、主な攻撃方法が体当たりのため(演習時には使用禁止にされていた)さほど戦力に代わりはない。


「聞こえたか野郎ども! キャプテンの時間稼ぎだ! 急げ」


 大将のヘッドセット越しに、ミナ島の港へ撤退していたアルタ達の檄が響く。彼らは実弾の搬入を始め、手早く港から出向をした。

 時を同じくして、新井直接指示の元撤退途中であったダイシャーク一号機も当該海域へと巡行形態で舵を取る。


「聞こえるか。諸君の任務は時間稼ぎだ。無理に叩こうとするな。何せヴァルハラの財布は相変わらずかつかつだ。諸君らが無傷で帰還することを期待する。以上」


 その通信を最後に、海賊シャークフォース連合軍の指揮権は鮫島に移された。


「パイレーツスパイト、貴艦を中心に陣形を組みたい。船速を合わせることは可能か?」


「不可能じゃねえが、多分火力はゼロに等しくなるぞ。それに持って五分だ」


 鮫島は新井が事前に指定した集合地点に向かう艦内で、アルタと綿密な計画を練っている。新井から提示されたリミットは七分。


「……六分だ。それだけ持てば十分。無理をしてくれ」


「聞いたか野郎ども! 六分だ。最大速を六分維持しやがれ! 出来なきゃ大砲突っ込んでぶっ飛ばすぞ」


「アイアイ」

「無理言ってっくれる」

「やるぞぉお!」


 髑髏を掲げたガレオンが、大きく舵を取った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「オイオイマジで言ってんのかお前?」


「アタシャ冗談でこんなこと言えないよ。それにこうでもしないとアイツら、すぐ沈んじまうだろうからさ。しっかり時間稼いで来るから」


 三度、八型改の胸部ハッチが開かれた。現在八型改はキノ島ドッグに向け移動中である。その操縦はコルセアではなく、クリスタが行っていた。

 そしてそのコルセアは手すりに掴り、合流地点へ向かうパイレーツスパイトを凝視していた。

 彼女の提案。それは自身をカタパルトでパイレーツスパイトまで投射することであった。ドッグへの最短ルートを通れば合流地点とは離れてしまう。機体の速度を落とさずにコルセアがアルタ達と合流するにはこれが一番と、彼女は考えた。


「了解。カタパルト、展開するぞ」


 渋々と右手のカタパルトを展開させた鬼丸。本来そこに乗っているはずの爆雷は存在していない。

 展開を確認したコルセアは

「行ってくる」

 とだけ言い残し、腕の力を使いヴリュンヒルド八型改の白い体を這う。彼女が向かうのは先ほど静かに展開されたカタパルト。その最後部へとたどり着くと、本来投射物が乗せられる場所に足を開き、右手を着いた。


「酒田、カタパルトとの接続確認。角度に注意しながら微調整」


 クリスタの指示により鬼丸が角度の微調整を始める。着弾目標は勿論、パイレーツスパイトである。その進路を予測しながら調整を行う彼を支えるのは、八型改の演算能力であった。

 風速、船速、風向きからコルセアの予測線、これら全てを瞬時に計算し鬼丸に提示し続けている。


「誤差調整終わったぞ。投射いつでも行ける!」


「了解。行くわよ酒田!」


 クリスタの承認により、鬼丸の元で投射が可能になる。その合図はカタパルト上のコルセアにもサイレンと赤色灯で合図された。


「いいぜ! さあ、ぶっ飛ぶぜ!」


今回も読んでくださりありがとうございました。面白ければ感想ブクマ、評価をよろしくお願いいたします。

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