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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十二海路 3 釣りの美学

「いや~。お騒がせしました」


 コックピット内には、いつもの聞きなれた八型改の声が響き渡る。


「最高の気分だわ。どう鬼丸? お化け、まだ居そう?」


 ひとしきり笑い終えたクリスタが冷静に声をかける。その前後では、顔を真っ赤に染め俯きながら黙り込む鬼丸とコルセアの姿が確認できる。

 ヴリュンヒルド八型、およびその改良機体であるヴリュンヒルド八型改は前述したとおり高度な索敵能力を持つ。しかしそれを限定的にでも活用すると、正しく索敵が出来なくなるだけでなく、機体に大きな負荷がかかる。

 元の八型であれば人工知能が搭載されていないため、負荷に対するキャパシティが十分に確保されていた。

 しかし八型に人工知能が芽生えたため、機体にかかる負荷が急増した。そのため索敵レベルを第二段階まで引き上げた際、演算的負荷を軽減するため八型改自身が自我機能レベルを極限まで下げていたのである。


「今はお前の方がバケモンだわクリスタァ。なんでわかってたんだよ八型改だって」


「さあ? 冷静に考えて、そんな非科学的なものはいる訳ないでしょ? そんでここは上空。キルでもなければアンタでも酒田でもない。あとは、わかるでしょ?」


 わざと笑顔を作り振り返り、首を傾げ先ほどの鬼丸を理論的に煽る。その顔に耐えられなくなった鬼丸が、大きな咳払いをして話を始める。


「で! その……なんだ。なんでダイシャークもこっちも動かないんだよ?」


 現在、八型改はダイシャークが視認出来る距離にて空中待機を行っている。コックピット内には深く響くエンジン音が静かに木霊している。


「シャークフォースは全三機。きっとヤツは偵察機的な役回りでしょうね」


「だから? 」


「やるなら一瞬で終わらせないと、対策される。例え型落ちな上に陸戦のパチモンとはいえ、あの機体を海上で二機以上相手にしたくないわ」


 その説明で十分と思ったのか、クリスタは口を止め右手をそこに添える。海中に居る以上アサルトライフルでの射撃は有効にはならない。


「ARは駄目。今のあれはいわば潜水艦。確か海上艦は爆雷? とかを使ってこれを倒していたわね」


 自問自答を小さな声で行った後、何かを閃き後ろを振り返る。


「ねえ鬼丸、アンタんとこのカタパルト、今使える?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「零号機へ打電だ。甲、まだ確認できず」


 試験的に通信をモールス信号に切り替えたシャークフォースの隊員たちが、黒いボタンをリズムよく叩く。

甲、とは八型改のことである。

 定期連絡を終えた一号機のソナーが、異常な大きさの音を捉え警報を鳴らした。


「近いぞ! 確認急げ」


 艦長の指示の元、隊員たちがその音の元の特定を始める。その発生元は一号機のすぐ近くであった。


「小さな……金属塊? 場所がバレたか」


「馬鹿ね。奴らのレーダーはこの金属片(チャフ)で無効化されている。ソナーかなんかじゃないの?」


「それは搭載機器リストになかったぞ。何かあったら不味い。一応上空も見ておけ」


 艦長の指示で、潜望鏡が伸ばされた。そのグラスが捉えたものは……。


「爆雷! 爆雷投射です!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ソナーの反応はその一瞬で天文学的数字……とはいかないが、無数の反応を現した。そしてその直後、一号機の機体は綺麗な色に染色され始めた。

「んま、こんなもんよ」


「ウチ、知りませんでした。自分が対潜戦闘まで出来たなんて……むしろ出来ないことが無いくらい」


 手をパパンと叩き、ふんぞり返る鬼丸。八型改に搭載されている爆発物の中に爆雷があったことを思い出した鬼丸は機体手甲内部に格納されていた。カタパルトを起動させ、空中より投射を敢行し、一号機の表面積全てを塗りつぶした。これにより増援の心配も、この作戦がシャークフォースに伝わることもない。


「このバカ、ペース配分って知らないのかしら。あらかじめ使用弾数制限しておいてよかった」


 頭を抱え、呟くクリスタに、機体後方、キルが何か勝ち誇ったように告げる。


「兄さんは、いつでも全力。それが戦の天才」


「いい子だぞキル~」


 その一言で、鬼丸は更に調子付く。


「でもなんで、はじめの一投だけあんなに時間差があったの?」


 クリスタは自身が抱いた疑問を投げかける。そもそも陸戦は潜水している相手との戦闘を想定していない。最低限味方の援護投射くらいのため、彼女のマニュアルに対潜戦闘のイロハは存在しない。


「一気に全部入れたら、警戒して距離を開けるはずだ。俺ならそうする。ただ反応が一つだけならきっと解析なり索敵なりを優先する。そんなに被害は気にならないしな。目の前の危険物よりも大局を見据えたムーブを採るだろうと考えた」


 そして鬼丸は自身の手を使い、一本の空想上の釣り竿をクリスタの前に作り出し、それを彼女の前に垂らす。


「一発目はエサだ。それで奴らの足を止めて……」


 無意識のうちにエサに喰らい付いていた獲物、そして話に合わせ糸に手を伸ばしたクリスタに対し、鬼のように邪悪な笑みを浮かべてそれを吊り上げる。


「一本、という寸法よ。お分かり?」


「アンタが味方でよかったことだけはわかったわ」


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