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鋼女神話アサルトアイロニー  作者: ハルキューレ
海上編第三部~海上神秘~
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第二十一海路 3 彼はその手を離さない

「バカ言ってんじゃねぇよ。らしくもない」


 そう言って、鬼丸はクリスタの手をとる。そのゴツゴツした手で、白く細長い手の震えを抑えるように。

 自身の意識が、その突拍子もない鬼丸の行動によってはっきりとしたクリスタは、慌てて鬼丸の手を振り払おうとする。


「やめなさい! 何の冗談よ」


 声を荒げ、赤く伸びた髪を振り乱す。そんなクリスタに対し鬼丸は、不動を貫いていた。彼の真剣なまなざしは、冗談を言うものではなかった。


「離さない! 何が、なんでも! お前が安心するまでは!」


 大きな声で力強く宣言する鬼丸。クリスタの手を握る手は一層強くなる。


「アンタ、何を……言って……」


 涙声のクリスタが、涙目で鬼丸を見る。いつもは細く、そして刃のように鋭い彼の目が大きく見開いていた。そしてその奥から覗く訴えを、クリスタは感じ取った。

 今、自分が何をすべきなのかを。

 彼女は手を握られたままコックピット内を見渡した。そこには必死に歯を食いしばりながら操縦桿を動かすコルセアと、涼しそうな顔が曇っているキルが確認できた。そして割とおしゃべりな八型改の声が聞こえない。聞こえるのは着弾予測の警報のみ。


「確かに、らしくないわね」


 彼女の中の不安は一瞬にして晴れた。手首のスナップを効かせて鬼丸の手を払うと、そのまま後ろ髪をなびかせ、鬼丸へ向き直る。


「いつまで手を握っているのかしら? もしかしなくても変態?」


 真剣なまなざしをしていた鬼丸だったが、クリスタのその態度を見た途端、不適な笑みを浮かべる。


「知らなかった。お前の故郷では感謝する相手のことを変態って呼ぶんだな」


「バカも休み休み言いなさい。大丈夫、例えそこが硝子張りの部屋でも、面会くらいは行ってあげるから安心して捕まりなさい」


「どうあがいても変態なのかよ……」


 首を落としうなだれている鬼丸。それを見て勝ち誇るクリスタ。その姿を確認した鬼丸は自身の席へと戻る。


「ごめんなさい二人とも。そして反撃出来るように距離を一定に保ちつつ被弾ゼロ、本当にありがとう」


「まあ無事ならいいんだ。ただ埋め合わせとして、今日の飲み会には付き合ってもらうよ。鬼丸、久しぶりにアンタもどうだい?」


「飲み会とやらが何かわからぬが、面白そうだ」


「最近全然呑めてなかったからな~。これは楽しみだ」


「ちょ、アンタ達ねぇ……」


 迷惑をかけた手前あまり強く拒否できないクリスタを、コルセアは予測していた。本部時代、クリスタは脳細胞が破壊されるだのなんだの理由をつけて酒場に現れたことはなかった。

 人間は未知に対する好奇心というものが強い。アルコールを避け続けていたクリスタが酔った姿を見たことのない二人は、それに興味があった。


「それもこれも勝ってからよ。再突撃用意!」


 額に手を当てながら頭を悩ませたクリスタがごまかすように指示を出す。


「大丈夫か? またパニック起こすかもしれないぞ」


 舌で唇を濡らした鬼丸がクリスタに問いかける。その言葉と優しい言い方とは裏腹に、顔は悪魔のように邪悪であった。


「あら、挑発にしては安いわね。それに」


 そう言い、クリスタは振り向き鬼丸の目を見る。


「安心するまで、手を離さないのでしょ? 今更言い逃れは許さないわよ」


 その姿は戦場に咲く一本の薔薇のように美しく、しなやかで、それでいて刺々しい。愛でればこちらが大けがを負う。そんな姿であった。ただ座っているだけなのに。

 その姿に鬼丸は石化した。幸いそれは一瞬で、誰にも気が付かれてはいない。彼自身にも。


「さ、大恥かかせた海賊どもに目にモノ見せてやろうじゃない? カチコミよ!」


 向きを正面に戻したクリスタの一声で、八型改は敵艦左舷側に向け飛び始める。


「カチコミってお前」


「出たよ、クリスタの悪い癖。なんでたまに任侠映画みたいな言い回しになるのかねぇ」


 弾幕の雨が行く手を阻む。それだけではなく、時折下から突き上げる水柱も彼らの壁となる。


「次、二十度右。左に四十度。鬼丸、今マークした弾撃ち落して。三秒あげる」


 クリスタの指示で華麗にそれらを回避する。躱し切れないと判断したものは事前に鬼丸がアサルトライフルで撃ち落とす。


「こんな不安定な体勢じゃ精密射撃は無理だろうな。俺じゃなきゃ」


「その根拠のない自信ひけらかす暇あったら手を動かしなさい。次、二秒」



「あ、アルタ! 奴ら被弾してねえ。バケモンだ!」


 パイレーツスパイト甲板上では当然、混乱が起こっていた。後退しながらの船首砲での攻撃ということもあり期待はしていなかったが、一発くらいは当たるだろうと踏んでいたアルタだったが、その読みは外れた。


「……取舵一杯! 回頭始め。左舷砲戦用意! 回頭終わり次第全速前進で撤退だ」


 今までそれをしてこなかったのは、単にプライドの問題だけではない。翼を得たヴリュンヒルド八型改のスピードなら、この船の最大船速に軽々追い付ける。

 ただこのままやられるよりかは、最後の最後まであがこうというアルタなりの考えだった。


「最後の一瞬まで打ち続けろ! 忍耐力との勝負だ!」


「行くぜ野郎ども!」

「おうよ!」

「我ら海の子なめんじゃねぇ!」


 海賊達は勇ましく、迫りくるヴリュンヒルド八型改へ啖呵を切った。


いつも読んでくださりありがとうございます。面白ければ感想、レビューをお願いします。

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